第50話 儀式と新しい出会い
任証を受け取った後、ティオンさんに連れられて再度城を訪れて門をくぐる。
城下町とはまるで違うこの場所だが、今日は千年王国祭のためか少しバタバタしている雰囲気がある。
お城の人たちって、こういう日は何をしているんだろう?
ティオンさんは宮廷風術師だから何か行う役目があるのだろうけど……俺たちの案内もその仕事のうちの一つなのかな。
「ティオンさん。僕たちどこへ向かうんですか?」
「噴水より東へ向かった先にね、神聖な場所があるの。そこで正式な儀式を受けてもらう」
「神聖な場所ってなんだ? 面白い場所なのか?」
「行けば分かるよ。見た目は凄く綺麗な場所だから」
ラディと一緒に歩いてついて行くと、噴水の水はこちらから流れていたことが分かる。
水の流れに逆らうように歩いて行くと――白色の門に美しい金色の装飾が施された扉があった。
その扉を見て、思わず声を出してしまった。
「竜だ……」
「ああ。すげーな、恰好いいけどちょっと怖い竜だな」
「コーガ・ユーナを象ったものだよ。さぁ入って。君たちが最後だと思うから」
白い扉を開けると、中はとても広く、天井も高かった。
水はここから流れてたんだ。
部屋の中は大きな竜を象った彫刻のようなものがある。
そして、竜のツメ、口、ツノそれぞれから水が流れ落ちて下へ溜まっていた。
『わぁー……』
俺とラディは声を合わせてそう呟いていた。
しばらく見とれた後、はっとして周囲を見回すと、その溜まっている水場に今年の合格者と思われる冒険者が数十名いた。
全員俺たちの方を見ている。
無理もない。俺もラディも最年少組。彼らからすれば子供同然なのだから。
ティオンさんに促されながら、水場の近くへと移動する。
「君たちはツメ側だ。ツノは一人もいないから、ツメとキバだけだね」
「ツノはそんなにいないものなんですか?」
「そうだ。ツノは早々なれるものではないし、ツノを希望してもほとんどの場合ツメかキバへ振り分けられる」
ツメの前にはおおよそ十数名、キバの前には十名の人たちが並んでいた。
あれだけいても二十名足らずしか合格していなかったんだ。
全員集まったことを確認すると、竜の彫像前に立つおじさんが両手を上げて合図する。
そして……思わず吹き出してしまうような姿勢を目の前で披露し始めた。
その姿勢とは、、両足を広げたまま両手を上げ、前方に突き出す姿勢を取り、親指、人差し
指、中指を、竜が爪を立てるようにして折り曲げてみせた。
「コーガ・ユーナの恩恵を今ここに! 君たちはこれより冒険者となる。各々任証を泉に浸すのだ!」
「さぁ君たちも」
「……は、はい」
吹き出しそうになるのを堪えて、言われた通り泉に銅色のメダルを浸すと、ツメの部分だけ色が変色した。泉の水が影響したのだろうか。
「おお、一部分だけ色が変わったぜ。おもしれー」
「これはあくまでその部分が大事だよってことを分かってもらうための儀式なんだ」
「オホン」
「おっと、これは失礼ミルアルデ卿」
「……コーガ・ユーナの導きをともに! さぁ皆さんも私と同じ姿勢を!」
「げぇ。あのだせーやつやるのかよ」
「しーっ。ラディ、聴こえるよ! ええっと、こうかな」
俺とラディは見よう見まねで、ミルアルデ卿と呼ばれた人物と同じ格好をしてみせる。
『コーガ・ユーナの導きをともに!』
全員がその姿勢をする光景は、とってもシュールだった。
これは恥ずかしい。自分が小学生だったとしても恥ずかしい。
でも、周りの大人たちも真剣な表情でやっている。
「後のことはそれぞれが連れて来た担当官に話を聞くように」
「あれ? これでおしまいなのか?」
「外に食事が用意されてるから、そこで合格者と交流するといいよ。それと君たちには褒賞が出てるから、後ほどラーギル先生が持って来てくれると思う」
「ラーギル先生? 誰だ、それ」
「騎士様らしいよ。少しネビウス先生に似てるかも」
「へぇ。とりあえず飯なんだな! 行こーぜファウ」
「うん。ティオンさん、あの……コーガ・ユーナってこの国にとって何なんですか?」
「それは、私よりラーギル先生に質問するといいよ。それじゃまた後でね、ファウ君」
その後食事処へと案内されると、他の合格者さんに話しかけようとしたのだが……どうにも俺やラディは避けられているようだった。
けれど一人だけ、こちらへ積極的に話してくれる人がいた。
それは――「君たち、最年少合格者なのだろう。私はクルン・ウィスプという者だ」
「初めまして。僕はファーヴィル・ブランザス。ファウって呼んでください」
「俺はランド・ディアス。ラディでいいぜ、兄ちゃん」
「これは親切にどうも。実は少しだけ話がしたいんだけど……ここではちょっと」
「何か俺たち、嫌われてるんだよなー」
「うん。僕たち何か良くない印象を与えていますか?」
「大きな声では言えないが……あれは嫉妬だろう」
クルンさんはニ十歳位の明るい紫の長い髪をもつ男性だ。
すらっとした見た目で凄くモテそうだけど、嫌味な感じがしない人だと感じた。
腰に棒を差しているから棍使いなのかな。
任証は……この人、キバ任証だ。一本のキバが目立つように刻まれている。
俺とラディは美味しい食事を早々に済ますと、ラーギル先生が来るまでならと一言伝えて、クルンさんの話を聴くことにした。
食事を取った場所は三次試験で利用した訓練場。
そこから少し離れた場所にある木の下へ、三人で向かう。
「すまないね。私も彼らが好きになれなくて。君たちは最初の任務について知っているかな?」
「最初の任務? それって決まってるんですか?」
「いいや、選択式ではあるんだけどね。実はここで三人一組の依頼をこなせるものに刻限を表す道具が提供されるんだ」
「本当ですか!? あのラギ刻限時計を?」
「あ、ああ。知っていたのか。そうだよ、これにはちゃんと理由がある」
「どーいうことだ? それってすげー珍しいものじゃないのか?」
「ああ。しかも最初の依頼に限定されていて、早い者勝ちな上、特別褒賞のことは伏せられているんだ。毎年恒例ではあるが、受注は複数で可能な上、成功しない場合その年に支給はされない。ここ五年は受賞者がいない難関な依頼だ」
「……内容はどのようなものなんですか?」
「それを話すからには、引き受けてもらわないといけないかな」
「何で俺たちなんだ? 兄ちゃん他の奴にも声掛けたんじゃないのか?」
「言っただろう? 信用出来ないんだ。君たち子供にも嫉妬の念を向ける彼らはね。それに……ファウ君。気付いてなかったかもしれないけど、君の三次試験を遠くで見ていたんだ。あのアーティン卿からあんなに攻撃を回避するなんてね。私はスの二に住んでいるから、もし引き受ける気になったら訪ねて来て欲しい。良い返事を期待しているよ。それじゃ」
「分かりました」
会釈だけすると、クルンさんはそのまま帰ってしまった。
これはよく考えないといけない話だ。
「んー、どうすんだファウ。俺たち全っ然冒険者のことに詳しくねーよな」
「そうだね。ティオンさんにも聞いてみる?」
「うーん。それってさっきの兄ちゃんに失礼じゃねーのか? 出来る限り誰にも伝えない方がいいんじゃねーのか?」
「そうかな……それじゃネビウス先生とか?」
「ああ、あの先生ならいいかも。冒険者じゃないんだろ?」
「先生は研究者だね。冒険者ではないから相談しやすいかも」
「おおい君たち。食事処にいないからどこに行ったのかと思えばここか。探したよ」
二人で考えていると、噂のネビウス先生に少し似た雰囲気のラーギルさんだった。
「ラーギルさん。失礼しました」
「俺、ラディです。ファウから少しだけ聞きました。騎士様だって」
「ああよろしく、ラディ君。騎士といっても私は国を守る騎士ではない。騎士にも色々いるからね。さてファウ君、それにラディ君。君たちに授与された褒賞はこれだ」
「何だ? これ」
「これは……もしかして!」
授与されたとても嬉しいもの、それは……。




