第47話 長居した治療室を出て
突如徒弟なる仕組みがあることを聞いたけど、どういったものなのだろう。
その影響でティオンさんやラーギルさん、ティンボルトさんが何か話し合っていたのだろうか。
「徒弟というのを簡単に説明すると、指導者だよ。冒険者になり立ての者があまりにも命を落としてしまいやすいから、それを防ぐために用意された仕組みなんだ」
「うーん。でも、僕にはマシェリさんやネビウス先生がいるから……」
「ええっとね。マールは既に徒弟で三人成果を出してるからこれ以上は枠に入らないの。徒弟は最低一名、最大で三名まで受け持つことが条件なんだ」
「そうすると、あまり乗り気じゃない人もやることになってしまうような?」
「そうでもないかな。何せ一番上の階級は諦めてる人も多いからね。四つの巨大国において、そのような器量の人を信用して難しい依頼を任せられないでしょう?」
「それもそうですね。一番難しい依頼かぁ……どんなものがあるのだろう」
「例えばそうね。飛竜種の誘導とか、新しい技術分野の構築とか、各国共同の事業とか。危険なものになると、暴走種の鎮圧なんて依頼もあるかな」
「う……聞いただけでどれも大変そうですね……でも、竜の誘導なんてあるのか」
やっぱり引っかかる部分がある。まだ憶測でしかないけれど……。
いや、今考えるのは止めておこう。
「そうね。ちなみに徒弟は一人の生徒に対して指導員は二名まで。それに、その生徒にも指導員側にもちゃんとご褒美があるから。問題を起こしちゃった場合は罰則もあるし、指導に付く側も慎重に選ばないといけない」
罰則があるなら選んでもらえるだけでもいいのかな。
でも、どうせならラディと一緒に決めたい。
「ラーギルさんもティオンさんも、徒弟はまだ何ですか?」
「私は一人だけいるよ。ラーギル先生はいないね」
「そうですか……僕はラディって友達と一緒に決めたいんです。だから彼が受かったかどうかで決めます」
「そっか。足並みを揃えたいんだね。あの子の性格はどんな感じ?」
「凄く明るくて前向きで……元気で素直です」
「ふうん。そう言い合える友達って大事だと思う。私は……」
少し考え込んでしまった。どうしたんだろう?
そう思っていたら、ラーギルさんが部屋へ入って来た。
まだ治療室にいるままなんだよね……これからどうするんだろう。
「お待たせした。君の知り合いのラディ君。二ツメ銅任証で合格していたよ」
「二ツメですか!? 先越されちゃったなぁ……でもよかった。ラディも合格だったんですね!」
「ああ。私が着いた頃にアーティン卿がね。一時は大変だったんだ……手を抜いていたとはいえ、木刀を一発彼に当てたんだ」
「おやおや。今年は優秀そうなら冒険者が揃ったんだね。任証授与は千年王国祭と同じく明日だ。この日は本当に楽しみだよ」
千年王国祭とは、このエストマージで年に二度開かれる王国祭のことだ。
日絶という、夜が極端に短い日が夜を食べてしまうような日。
そこから十日後の日が一度目の千年王国祭。
二度目はいきなり開催されたので町の人に聞いてみると、ちょうど一年の半分を示す手がかりがあったのだ。
それは、王城にある鐘を鳴らす次の日。その日は丁度一年の半分らしい。
鐘の鳴る翌日が千年王国祭の日だったというわけだ。明日は日絶からちょうど十日目となる。
「もしかして、千年王国祭に合わせて冒険者試験が行われているんですか?」
「その通り。そうそう、王城内へは君の任証だと本来は入れない。金任証以降は手続きを踏めば入れるけれど」
それはそうだろう。王城に簡単に入れるはずがない。
少なくとも貴族だって王城へは簡単に入れないだろうし。
ここを使わせてもらってるのは、きっとアーティン卿のお陰だろうな。
「まだまだ知りたいことが沢山って顔してるね」
「はい……でもそれより今は……」
膝の力がガクッと抜けてしまった。
良かった……ちゃんと、合格出来たんだ。
早くラディと喜び会いたい。
「さて、治療室に長居していると怒られてしまう。そろそろ行こうか。王城へは入れないけれど、王城下の練兵場や施設についてはいつでも入ることが出来るよ。ただし、図書館と神聖な場所への立ち入りは今の君に許可出来ない」
「図書館に立ち入れる可能性はあるんですね?」
「うん。その任証とは別の資格が必要。必須依頼を三つこなせれば利用可能となるから。そちらはラーギル先生が教えてくれるよ」
「おいおい。そういうところは私頼みなのか……」
「あの。ラディが合格したのなら僕……お二人に指導してもらいたいと思います。凄くお世話になってしまいましたから」
「それは嬉しいけど、焦って決めなくてもいいよ。明日色々と手続きがあるし、そのときまでに考えてね」
「私としては今直ぐでも構わない。君は実に面白い考えを持っているし、何より相反の……」
「コホン。ラーギル先生。それは他言無用です! さぁ行こう。お友達が待ってるかもしれないよ?」
「そうですね。すみません、直ぐ行きましょう」
――王城の治療室を出ると、貴族にしか見えない人たちの集団と遭遇してしまう。
かなりきつい目でジロジロとみられた。
彼らからしたら、自分の恰好は見すぼらしいに違いない。
でも、嫌味のようなことを言われることはなかった。
恐らく統制が取れているのだろう。
平民を見下すなとか、亜人を差別するなとか、そういった厳しい法が制定されている国だというのは、エストマージに移り住んでしばらくしてから感じたことだ。
そのため、この国の王をみたことはないのだが、勝手に賢王だと思っている。
前世は民主主義に資本主義を織り交ぜた国家体制となっていたが、王国制は社会主義制が強いはず。
その中で歪まず統治出来ているのは凄いと思う。
もちろん他の巨大国と比較されるような部分もあってのことなのだろうけど。
国民の信を得ずに国の発展、向上は得られないってことだよね。
そんなことを考えながら歩いていると、城門前に到着した。
そして、城門前で兵士をみているラディを見つけた。
「ラディーー! おーーい」
「ファウ!? おせーぞ」
「あれ? 怪我してる?」
「大したことねーよこんなの。少しぶつけただけだ。それよりさ。どう……だった?」
「うん! 受かったよ。僕は先にラディが合格したこと聞いたよ。おめでとう、ラディ」
「へへっ。俺はおめーが受かるって信じてたけどな! 何せファウはすっげぇ奴だから」
「ラディは二ツメ銅任証でしょ? 僕より一つ上じゃないか」
「ぇえっ!? 本当か? それ」
「そういえばアーティン卿は私にしか伝えてなかったな……彼には合格としか言っていなかったように思える」
「もう! 本当にいい加減な人なんですから!」
「あれ? 俺がティンボルトさんと戦った話も知ってるのか?」
「うん。見たかったなー。凄かったんでしょ?」
「全然凄くねえよ! まるで歯が立たなかった。でも、一矢は報いたぜ。俺、二年前より断然強くなってるって確信した!」
「僕はずっと見てたから知ってるよ。アスランさんに来る日も来る日も……」
「子供のこういう場面、何て可愛いんだろう……ラーギル先生。私この子たち送ってきます。後の準備よろしくお願いしますね」
「おいおい。仕事をこれ以上放っておいて後で……」
「遅くなったのは私たちのせいなんですから、放っておけないでしょう?」
「……仕方ない。それじゃファーヴィル君。また明日会おう」
「はい。ラーギルさんも有難うございました」
「ティオンの姉ちゃんも一緒に行くのか? 俺も腹減ってきたし、ファウの家行ってもいいか? キュルルにも会いてーし」
「うん。マールさんやネビウス先生も心配してるだろうから、一緒に行こう」
こうして試験を終えた俺とラディは、キュルルの待つネビウス先生の家に向かうのだった。