第45話 三次試験、アーティン卿と実践試験
三次試験場の一角。アーティン卿と呼ばれていた人物と思われる場所へと案内される
と、待ってましたと言わんばかりに直ぐ話しかけられた。
だが、少し首を傾げている。
「なぜ君たち二人が同行しているんだ?」
「アーティン卿。少々優秀な受講者を見届けたくて」
「登録証を……ふむ。五十二番ファーヴィル・ブランザス。まだ子供だろう。本気で実践訓練を受けさせるつもりか」
「ファーヴィル君。覚悟はいいか? 君ならここで引き返すことはしないと思うが」
「ファウ君。きっと君の力なら大丈夫だと思う。でも、怖いなら諦めても私たちは構わない」
「受けます。ここで立ち止まるわけには絶対にいきません。僕もラディも絶対合格してみせます」
「ふん。いい覚悟だ。回答については後で確認しよう」
アーティン卿と呼ばれた人は……片目がふさがっているいかにも武骨者といった風貌。
騎士? にはあまりみえない。
取り巻きと思われる騎士も、あまり騎士っぽくはないように思える。
「木刀を。私がやる」
「アーティン卿。ご冗談を。それはいくらなんでも」
「三次試験に口出しは無用だ。判断するのは私だ」
「しかし……」
「別に子供をいたぶる趣味は無い。ある程度戦闘が務まらなければ冒険者など直ぐ死ぬだけだ」
「お二人とも。構いません。ちゃんと実力を示せばいいんでしょう?」
「その通りだ。別に勝てとは言っていない。不可能だからな」
対峙してみればそんなことくらい分かる。
この人、恐らくドラグより強い。
あんな重たそうな木刀を片手で軽々と振っている。
それだけじゃない。対峙してみているだけでも自分の手が震える。
上手く戦えるかは分からないけど、やれるだけやってみよう。
アーティンさんとの距離は約二十メートル。
剣士にとっては遠すぎる距離だ。
俺も伸尖剣を構えて対峙すると、小首を傾げられた。
「それは伸尖剣か。随分と大時代な道具を使ってるな」
「好きなんです。これ」
「そうか。こちらの攻撃を防ぐか、行動を阻みきればファーヴィル君の勝ちでいい」
「分かりました」
「では……開始だ!」
「ガルンフロガト!」
開幕と同時に氷術を飛ばしていく。
当然二十メートルも離れていれば相手になんて届くはずがない。
進路をなるべく少なくしておく必要がある。
多分、ハンデなのだろう。開始と同時にアーティンさんはこちらの行動をじっと見ているだけだ。
俺の後ろ側は多少逃げれるだけの余裕はあるが、そこまで後退出来るわけじゃない。
周囲の状況を把握しつつ、アーティンさんまでの進路を少しふさぐと、コートアートマで一本が上を向く三又状へと伸尖剣を変化させておいた。
「来る! ガルンヘルア!」
上空へ向けてガルンヘルアが飛んでいく。
そして直ぐ後退して、自分のいた場所へ残りの伸尖剣二本から「ガルンフロト!」と詠唱し、足場を凍らせる。
アーティンさんが数メートル走り込んだ後、上空へ飛翔して一気にこちらへと突進してきたのだ。
そして、木刀から氷術で攻撃もしてきた。
木を通してラギ・アルデの力を行使するのはとても難しい。
それを平気でやるどころか、風術で跳躍力を上げての連続詠唱。
着地にも風術を用いているはず。
でも……「いい動きだ。火術と氷術を巧みに使い分けて同時詠唱並みにするとは」
俺は急いで時計周りに動き、アーティンさんを左周りに回り込んで、ガルンヘルアを放出していく。
しかし、全て木刀で払い火の球を落している。
ただの木刀であることは間違いない。
何ていう技量。お城の騎士ってこんな化け物揃いなの?
これじゃ竜と戦うなんて答えになるわけだよ……。
こちらが放った球を、徐々に正確な方向で、俺へ飛ぶように撃ち返し始めた!
俺もガルンフロトを詠唱して、打ち返してきた球を防いでいく。
「アーティン卿! やり過ぎだ!」
「そうですよ! ガルンヘルアを木刀で叩き落すなんて、冒険者誰しもが出来ないでしょう!」
「分かったよ。だが、このままだと彼は不合格だ。さぁ行くぞ!」
「なっ……」
一気に近づいて木刀を振るおうとするアーティンさんの動きを見定め、手を前に突き出して詠唱する。
アーティンさんの顔は笑ったままだ。
不合格なんて、絶対に嫌だ!
「ガルンリキド」
「何っ!? 水だと! ちっ、油断して目に入ったか!」
「ガルンフロガト!」
目に向かって水術を放出し、すぐさま今度はアーティンさんの足下を凍らせた。
伸尖剣の形状も二又に変化させ、木刀を挟むようにして伸尖剣を木刀に絡ませる。
そして……「ガルンヘルドア!」
伸尖剣を伝わる炎で木刀を焼く。
気付いたアーティンさんは木刀を振り払い、俺は伸尖剣を落としてしまう。
拾ってる余裕は無い! 急いで後ろに下がらないと!
「伸尖剣をしっかり使いこなしてる。これは面白い逸材かもしれない。だが、まだまだ子供だな。はっ!」
「うっ。熱っ!」
アーティンさんは、距離を取った俺へ燃える木刀を的確に投擲してきた!
慌てて弾いたけど、少し炎が衣服を焦がし、弾いた腕を打撲したみたいだ。
痛いけど……折れてはいないはず。
アーティンさんは目の水を拭いきると、直ぐに駆け出して来た!
まだ冷静でいられる。しかしどうしよう。
これ以上ラギ・アルデの力を使えば……いや、一か八かだ!
「跳躍と同時に……ガルンウィガド! ……っ痛」
「っ! 馬鹿野郎!」
「あの年であんなに高く飛ぶなんて、何考えてるの! ガルンウィガド!」
「うわぁーーー!」
突進してくるアーティンさんを回避すべく、得意ではない風のラギ・アルデ術を使って空中回避を試みた。
でも、制御が上手く出来ずに酷い方向へ高く飛んでしまう。
更に地面を強く蹴った反動で足をしこたま痛めたようだ。
まだ早かったんだ……直ぐに飛び出したティオンさんに助けられてしまった。
そのまま落下してたら、怪我じゃ済まなかったかもしれない。
「もう。アーティン卿は何故あんな無茶を。ああ、服が焦げてる。どうしよう……」
「ティオンさん、有難うございます。降ろして下さい……僕、失格ですよね」
「何言ってるの。見てよアーティン卿のあの顔」
「えっ? 攻撃回避は一回だけなんて言って無かったから……」
「くっ……はっはっはっはっはっは! おい見たか。俺の移動と攻撃、何回防がれた?」
「アーティン卿……まさか木刀を投げて攻撃するとは。思わず冷や汗が出ました。死んだらどうするつもりだったんですか!」
「大丈夫だ。そいつはそんな玉じゃない。悪かったな。良い目つきだった。大人でも臆する場面で更に最善を考え、尽くすか。本当にお前、竜相手に逃げるとか書いたのか?」
「アーティン卿。彼の答えはこれだ。まったく。腕でも折れたら指導出来なくなるだろう」
俺の二次試験解答用紙、持って来てたんだ。
ちょっと恥ずかしいな。
「ほう……いいな。こいつをもらってもいいか?」
「駄目です! もう、何考えてるんですか! アーティン・ラインボルト卿! ファウ君を大怪我させるところだったじゃないですか!」
「アーティン・ラインボルト卿? それってもしかして……ティンボルトさんという剣士ですか?」
「ん? 俺のことを知っているのか」
「え、ええ……えーと。名前だけなんですが……」
まさかラディ憧れの剣士さんだったなんて! 強すぎるわけだ。
この人、きっと凄く有名な人だったんだ。恐れ多い……。
「まぁあれだ。素質は十分。度胸もある。相反はどうか分からないが、あの状態で冷静な判断。お前ら二人がここまで来るのもうなずける話だ。四次試験はいいだろ。こいつは一から経験を積ませた方がいい。希望はツメか?」
「はい。でも彼なら銀から始めてもいいのでは?」
「いいんだよティオン。マールもそうだったろう。その子のためでもある。言う通りにしておけ」
「本当勝手なんですから! でも、確かに他の大人から嫉妬されても困るし……分かりました。ファウ君。おめでとう」
「試験って四次もあるんですか? 受講場所は……」
「試験は本来、三次試験終了時点で一番低い等級が確定するの。四次は上から始められる可能性がある受験者が希望で受けるんだ。でも、三次試験の試験官が受けさせないという選択も出来る。君は残念ながら……受けるなという試験官の判断みたい」
「そう……ですか。でも僕、もうラギ・アルデの力を使い過ぎて……限界でしたから」
「アーティン卿のせいなんだよね、それ。はぁ……お姉さんが背負っていくから」
「いや私が背負う。ティオンは彼の伸尖剣を持ってやってくれ」
「駄目です。ラーギル先生が伸尖剣を持ってあげて下さい。これ以上譲歩はしませんからね」
「むぅ。仕方ないな」
「あの、お二人とも。お聞きしたいんですけど……五十三番のラディは……どうなったか分かりませんか?」
「ラディ君か。調べておこう。ひとまずその腕……怪我をさせてしまったようだ。処置室へ連れて行こう」
「はい。すみません……」
「君ではなくアーティン卿が謝るべきなんだけどね」
「いや悪かった。久々に骨のある受験者だったんでな。また会う機会があったら、より強くなっていることを願うよ。こっちの受験者はお前らに任せる。少し獣狩りの方を揉んでくるとするか。そのラディ君だったか? にも興味が沸いた」
「ええっ!? あっちの邪魔をしたらそれこそ大臣に怒られますよ……」
「邪魔はしない。今年は当たり年な気がしてな。こいつ以上に活きがいい奴かもしれないだろ?」
まずい。余計なことを言ったかもしれない。
憧れの人が目の前に突然現れたら、ラディは緊張して上手く行動出来ないに違いない。
「あの! あっ……」
「それじゃな! ガルンウィガド!」
「どうしよう。僕、まずいことをしてしまったかも……」
「大丈夫だよ。五十三番ならきっと試験も終わってるだろうし。さ、行くよ」
こうして俺はティオンさんに担がれ、ラーギルさんに伸尖剣を持ってもらったまま王城方面へ連れて行かれるのだった。




