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第44話 ラーギル・クリストフの質問

 試験官は、ここでは他の受験者が来るからと回答を読む途中で、別の試験官を呼ぶ。

 そして、ティオンさん共々隣部屋へと案内された。

 何か良くない回答でもしてしまったのだろうか? 

 腰を掛けるように言われたので、立派な椅子に座らせてもらう。


 その部屋は整理整頓が行き届いており、目を引くのは本棚が存在すること。

 この世界で本は貴重。それをいくつも用意されている部屋なだけあり、鍵を厳重に掛けられる本棚だ。

 置いてあるものはどれも高そうで、自分の今住んでいる部屋とは比較にならないけれど、前世のリビングほどでは無い気がする。

 総額からすればはるかに高いものだらけなのだろうけど、文明の違いがあり過ぎるのだろ

う。

 何せ精工に造られた皿が一枚三百円で手に入る世界だったから。

 

「本が好きかね。ファーヴィル君。男の子であれば武器にも興味はあるかね?」

「はい……あれ?」

「どうかしたかな?」

「いえ。僕、しょっちゅう女の子に間違えられるんですけど」

「観察すれば分かる。ただぼーっと試験を受けてもらったわけではないのだから。自己紹介をしよう。私はラーギル・クリストフ。第五階位騎士階級を持ち、教育指導を主に担当している者だ」

「騎士様だったのですか!? 失礼しました」

「かしこまらなくてもいい。今の私はただの試験官だ。さて、本来このような形で別室へ呼び合否を告げることは無い。君が特例であることを許して欲しい」


 やっぱりまずいことを書いちゃったのかな。

 最後の回答……あれは俺の個人的思想が強かったから。


「僕、まずいことを書いて不合格でしょうか?」

「いや。この試験は文字の読み書きが出来るか。問題の意図を読めるか。そして素直なことが書けるかを確かめるものだ。君は間違いなく合格。ただ、いくつか質問させて欲しい」

「よかった……はい、質問に答えます」

「よろしい。まず、君は書物に深い関心があるようだね。この部屋に入って直ぐ、本棚を見ただろう。書物に興味が無い者がそこへ着目する可能性は低い。それにこの部屋へ来て、まず目にすべきものを君は見ていない」

「まず、目にすべきもの? えーと」


 周囲を見回すが……自分の目に映るのは、ありきたりのものしかないようにみえる。

 何か変わったもの……テーブルに椅子に燭台に立てかけられた絵と布に包まれたものを入れてあるツボ?  後は……いや、どれも凄く注目すべきものには見えない。

 当然王城内に設置されているものだから、どれも高そうだとは思うけど。

 本より興味を惹かれるものはないかな。


「やはりよく分からないといった顔か。この絵に皆注目するのだけれどね」

「絵……ですか? 確かに綺麗です」


 前世ではこういった絵がゴロゴロ転がっていたような気もするし、いつでも見れた。

 そうか。この世界で大きい絵を描くのってとても大変なのかもしれない。

 絵具だってそうそう作れないわけだし。


「これはショテル・マリアンヌという王城の名士が書いた絵だ。君はこれを見て良いと思ったが、それ以上の絵を見たことがある。あるいは沢山見て来た。違うかな?」

「ええっと……僕、綺麗な景色のところに住んでいたので……多分それでかなと」


 とてもではないけれど、前世で歴史ある絵を何度もみて感動を覚えた! とか、何なら印刷された作品が簡単に手に入るなんて口が裂けても言えない。


「そうか。どちらにしろ君は本に注目した。そして、君の回答。九歳と聞いたが本気で多彩な書物の知識を学びたいと考えるのか?」

「はい。回答欄には事実しか書いていません。可能なら直接本を読んで学びたいとも考えています」

「宜しい。では次の質問だ。君は獣などを治療する医業を成したいというが、なぜそう考えたのか、教えてくれないか」

「はい……以前、僕は大きな生物に助けられました。でも、その生物は酷く傷ついていて……何も出来ないまま死んでしまったんです。だから、少しでも知識を身に着けてその恩を返したい。そう思って」

「……そうか。素晴らしいことだ。その年で命の尊さを知る子か……最後の質問だ。君は竜を恐れた回答だった。ではもし本当に竜が襲ってきたら、どうするかね?」

「竜は賢いと聞きました。自分がもし怒りに駆られる何かをしでかしたのなら、死を受け入れるしかないのかもしれません。ですが……」

「ですが……何かね?」

「その竜が悪しき竜であるならば、止めるような手立てがないかを考えます。自分一人では無理でも、先生や知り合った人たちの力を借りて。簡単に諦めることは誰にでも出来ます。でも、それじゃいけないんです。考えて行動しないと、誰だって救えないんだ」

「少し質問の仕方を変えよう。もし……人が操る悪しき竜が多く襲ってきたら、どうするかね」


 それは……出来ればされたくない質問だった。


「……退路を確保して避難を。出来るだけ身内と一緒に」

「うむ。ファーヴィル・ブランザス君。もし君が試験を合格したら、私の下で……」

「ちょっと先生! 駄目ですよ。私だって目を付けてるんですからね」

「おっと。まだ質問の最中だったのに入って来るとは。ティオン。この子はどうやら騎士にも引けを取らない強い信念を持っているようだ。人格も、文字の読み書きも何ら問題無い。彼の三次試験官担当はアーティン卿か……少々厄介だな」

「私も同行します」

「仕方ない。むしろティオンがついて来てくれていて良かったかもしれん。さぁ行こうファーヴィル君」

「試験官二人でアーティン卿の下へ行ったら絶対怒られますよ?」

「まぁ、そうだろうがね。この回答を彼に見せておく必要がある」


 よく分からないまま二次試験の合格を言い渡され、部屋を出る俺とティオンさんにラーギルさん。

 質問の意図は何だったのか。よく分からなかったけど、次の試験場へ向かうことに。

 試験が終わるたびに試験官が同行していく異様な状態だけど、これは平気なのだろうか。

 ――次に向かった三次試験は、騎士訓練場のようなところ。

 ついに実践……だよね。

 広い空き地のような場所に騎士と思われる人が十人はいる。

 既に三次試験は始まっているようで、何人かが戦っているようだ。

 どんな試験なのか不安そうにしていると、ラーギルさんが話しかけてきた。


「二次試験までは共通項目試験だ。三次試験からは受講者によって案内先が変わる。ファウ君の回答……問六の答えが説得の場合、仲間を止められるかを確認する試験形式となるんだよ」

「もし竜と戦うを選択したらどうなるんですか?」

「その場合は獣狩りだ。一番多い答えだね。もっと強くなって絶対竜を倒す! っていう単純な答え方とか」


 ……ラディの場合そう書きそうだ。じゃあラディは三次まで進んでいれば、今頃獣狩りなのかな。


「その顔は、どちらが困難な答えか分かったようだね。だが、私もこちらの答えが正しいと信じている。だが、ひいきが無いようそれぞれの答えとは逆の試験官が設定されている。つまりこの試験官は……」


 武闘派で厳しい試験官ってことだ。

 気を引き締めないといけない。

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