第42話 試験開始!
ティオンさんの言う通りに、列が出来ている二番の立て札へと向かう。
少し遠目にみても一番の場所は大行列。
二番も人が多い。それに、自分よりはるかに背丈が大きくて怖そうな年配の人が沢山いる。
これだけ人がいるなら、その分合格するのが難しいってことなのかな。
先の方が見えないけど、どんな試験なんだろう?
ここは王城内敷地で建物外だから、外で行う試験だよね。
登録証で振り分けてるなら、記入した得意分野から列を振り分けたのかな?
どんどん先に進むので、ただ立っている時間は非常に短い。
しばらく待っていると――「次、ファーヴィルブランザス、五十二番。前へ」
「はい!」
ティオンさんの声でそう呼ばれ、返事をして前へと進んだ。
試験場所は紫色の布でおおわれた敷居の中。
外からは何をしているのか分からない。
敷居の中へ入ると、ティオンさんが椅子に座ってこちらをみている。
他にも二名、立ってみている人がいた。
先ほどとは打って変わって真剣な眼差しをしている。
奥には標的のようなものがあり、焼け焦げたような跡が少しついているように思える。
「君にはラギ・アルデの力を行使してもらう。好きな力を最大で三つ。もちろん一つでもい
い。テーブルの上に並んでいる道具を自由に使ってくれて構わない。方法も任せる」
テーブルの上を見ると、実に多彩なものが並んでいた。
鍋や瓶、コップにさじ、衣類や紙、金属などもあるし、食料品も並んでいる。
ネビウス先生には出来れば相反の力を見せるべきではないと指摘された。
だが、水の力は見せても良いとのことだったので……選択するとしたら氷、水、風か無属性。火は的をみている限り、前の人たちが沢山やっていそうだ。
風は分かり辛いけど、担当官が風術の使い手、ティオンさんだから風も使ってみよう。
幻滅される可能性もあるけど、無属性は割と誰でも使えるからね。
ということで、選択するのは氷、水、風。
道具は少し大きめの瓶、それから筒かな。
あくまで基礎が出来ているのかが大事だってマシェリさんが言っていたし。
それにしても自分より先の人たちは随分早く終わったけど、そんなに早く終わるのかな?
まぁいいか。まずは水から。
「ガルンリキド」
「水!? 水適性があるの?」
「はい。わずかな力ですが……よし。ガルンフロト!」
「水に氷……うん、いい構成だ」
大きめの瓶に水を張り、そこへ氷を投入。
冷たい氷水の完成。
今度は少し大きめの筒を持つ。この筒は上下共に穴が開いている。
吹き矢とかで使う道具の大きい奴? なのかな。
手のひらで筒の下側をふさぐように持って、先ほどの瓶に入れた氷水を上から注ぐ。
いい感じの冷たさが手のひらに伝わって来る。
「ファウ君。今度は何を?」
「直ぐにやりますから……ガルンウィド!」
――ゆっくりと筒につけた手のひらを放し、筒を持ち上げていく。
すると氷水は筒内部にしっかり留まっているまま持ち上げられる。
それをティオンさんの方へみせに行く。
少し感心したようにこちらへ笑顔を向けてくれた。
この風術は集中的かつ永続的に放出する必要がある。
手のひら全体から放出すれば風は広がってしまい、こんな風にはいかないだろう。
けれど、手のひらを筒を持つようにしていれば……修行の成果で水を数十秒浮かせるこ
とが出来るようにはなったんだ。
もちろん水は広がって逃げようとするから、上手く包み込まないといけないし、あまり筒から手を離すとこぼれてしまう。
入れ物に入れた水を落ちないようにするのが精々だ。
水そのものを浮かせ続けるなんて、今の俺にはとてもではないけど出来ない。
けれど、その程度の制御でもとても難しかったから、何度も何度も繰り返し練習した。
しかもただの水じゃなくて氷も落とさないようにしないといけない。
地味にみえるけど、弱いなりにもきちんと風術を制御出来ていることになる。
これを大掛かりにしたやつが、ティオンさんがみせた空から落ちても平気な制御。
本来風は個体や液体を押すのに向いてはいないけど、恐らく瞬間的に爆風を起こしてクッションにしたのだと思う。
到底今の自分には真似出来ない。
火を飛ばしたり、鍋に張った水を湯にしたりも出来るけど、それぞれを的確に制御出来ているかどうかが分かりやすいようにしたかった。
火を飛ばすにしても、ここは外。周囲に吹く風の影響を受けてしまう。
つまり、突発的に風が強まると方向が少し逸れてしまったりする。
それに、ティオンさんは【テーブルの上の道具を使って構わない】と言っていた。
奥の標的はどうみてもテーブルの上に無いから、火のラギ・アルデを行使するならあれはフェイ
ク無いしどれかの道具を通して撃たないとならないだろう。
それに、並んでいる道具にもいくつかフェイクがあるように思える。
火を行使するなら、料理を作ってみせるとか、置いてある金属を溶かして形を変えるといった工夫が必要かもしれない。
そういった工夫と制御を確認するための試験に違いない。
だからこそ、水と氷を別々に使用するのではなく、氷水を用意した。
風術で浮かせるなら氷だけでも水だけでもいいとは思ったんだけど。
そして、大きめの瓶に水を適量注ぐ水量の制御。
小さめの氷を出して瓶に入れる氷の大きさを小さくする制御。
風を一定量放出させ、風を一点に集中させる制御。
全てはネビウス先生の指示通りにひたすら繰り返して行った練習の成果だ。
過去、何度も言われたことを思い返してこの一次試験を受けていた。
「ラギ・アルデの中で最も難しいのが力の制御なのだよ。大人でも全く制御出来ていない者が多くて困る。そういう大人に限って他人に見せびらかし、誇ったりする痛い大人なので見ていて恥ずかしくなる。君は今のうちからきちんと制御を覚えたまえ。それだけでもきっと、見る者の目が確かなら認められるのだよ」……とネビウス先生はため息交じりに言っていた。
大人たちが早く終わったのはそういった人たちだったのかな? と、一人考えていた。
「素晴らしい。水、氷、風、どれも適切に制御出来ているね。ただ的を攻撃したりするだけでは不合格だったんだよ。私は最初にここにある物を自由に使えと言った。きちんとこちらの話を聴いて、それを理解し、そして頭を使って自分の持つラギ・アルデの力を表現出来る……正直一次で三つの力を瓶と筒だけで表現した人は誰もいなかったけどね。合格だ。二次試験に移っていい」
「有難うございます。ええっと場所は……」
「ティリ、サンロ。ここをお願いするね。私は彼を案内してくる」
「ええ? そんな、ティオンさん!」
「うん? 何か文句ある? 昨日のお昼……二人ともどうしたんだっけ?」
「う……分かりましたよ。先生に怒られても知りませんからね! もう……」
「大丈夫。先生にもきちんと手回ししてあるから。マールの言うその実力、見届けたくなったんだよね」
他の試験官二人に何か指示を出すと、ティオンさんは俺の背中に手を当てて、着いて来るように言う。
ここの担当だったんじゃ……本当に良いのかな?
「二次試験はいいとして、三次は大変だと思う。そこが本番かな」
「まだ二次も終わって無いんですけど……」
――案内されたのは、一次試験場から近い建物の中。
建物の中には机と椅子が並んでおり、いかにも筆記試験をするという場所だった。
受講者はまだ来ていないのか、担当官と思われる男性が一人いるだけだ。
「なぜティオン君がここにいる?」
「彼の結果を見届けようかなと思いまして。ラーギル先生」
「一次試験はどうしたんだ?」
「後輩に押し付けました。私のことは気にせず、二次試験を開始して下さい」
「しかし一次試験担当官付きで受験とは少々問題があるだろう」
「先生。昨日の甘味処は如何でしたか? 取り寄せるのは苦労したんですけどね」
「ううん。まぁこの子を見る限り幼いながらも二次まで来たのだ。気になるのも無理はない。見ているだけならいいだろう」
なんかティオンさんて手回しとか丸め込むのが上手い人なのかな。
俺も注意しておこう……。
「では二次試験について説明する」




