断章1 ファウの特訓、世界の大陸構造
これはファウがドラグと決闘をすると決めてから数日後の話。
「うーん。いよいよ本格的にラギ・アルデの力を使うようにしたいんだけど、本当に難しいなぁ」
「キュ?」
「キュルル、どうやったら対象に向けて上手く氷を飛ばせるの?」
「キュー?」
「って、まだ分からないよね……キュルルの氷の息はちゃんと真っすぐ飛ぶんだよね。それに凍り付くまでの時間も早い。的確に対象を凍らせられる。でも僕のは……ガルンフロト!」
手を前に出し、目標を定めて氷の塊を飛ばす……が、どうしても狙ったところとは違う場所へ飛んで行ってしまう。
「難しいなぁ。ネビウス先生は杖を使った方がいいって言っていたけど、それも杖を伝わらせるのが難しいんだよね……」
「キュールルー!」
そう考えていたら、氷のラギ・アルデを使っていた目標物に、キュルルが氷の息を吐きつけた。
自分とは違ってゆっくりだが真っすぐと目標物まで飛んでいく。
「キュルル! もう一回、もう一回やって! あの場所に向けて。お願い!」
「キュ? キュールルー!」
今度はキュルルが息を吐き出す瞬間を間近でじっくりと観察出来た。
顔を上げ、氷の息を恐らくこのタイミングで生成して……それを前方に突き出すように?
「ん? 突き出すように……僕、どうやってたっけ。構えて、ラギ・アルデの力を感じてそれから……そのまま……あっ!」
そうか。同じようにやってみよう。手をキュルルの顔だと思って、上に……それから勢いよく目標物に向かって!
「ガルンフロト! ……おぉ! さっきより真っすぐ飛ぶ! 凄いやキュルル!」
「キュルルー!」
一緒になって喜んでくれるキュルルを撫で回す。
竜は詠唱無しにラギ・アルデの力を行使する存在。
それでも顔を上にして力を溜めてるんだね。
そして、目標に向かって勢いよく吐く。
この勢いよくっていうのが手を前に出してるだけだと出来ないんだ。
発射するインパクトの瞬間、放出する手から飛び出すようにぶつけるのが正解。
でも、火は勢いよく飛んでいくのはなぜだろう?
火の方がずっと扱いやすい。これは質量とかの問題なのかな。
火ってそもそも質量がないから飛ばしやすいのかな? 氷や水は同じ質量。
つまり風は質量が無いだろうから……試してみよう。
「ガルンウィド! ……って目標物に当たったかどうか分からないや」
わずかな適性があるガルンウィドは、本当にそよ風が吹く程度で、全然使い物になっていない。
これはきっと、特訓で少しは使えるようになるんだろうけど。
以前マシェリさんが部屋の掃除を手伝ってくれたときのようにはいかない。
「やっぱり一人だと限界だなぁ。早く先生、帰って来ないかな」
「キュー……、キュー……」
「あれ、キュルル寝ちゃったのか。そういえば息を何回か吐くと直ぐ寝ちゃうんだよね。すっごく疲れるんだろうな。ラギ・アルテの力は体内に宿した生命力みたいなものだし。しっかり食べれば回復するけど、体調悪いと全然使えないから僕も少しは伸尖剣を使えるようにしないと……」
ネビウス先生の話から、ラギ・アルデのことやエストマージのこと、オオグニ族とスミグニ族のことは少しだけ分かった。
オオグニ族もスミグニ族も、西にある大陸から流れて来た種族らしい。
とはいってもオードレートのある大陸ではない。
これは非常に大事な項目だと思ったので、貴重な紙を少しだけ切り、そこにメモを取った。
この世界に関する地理のこと。知る術が限られることだったのだ。
まず自分がいた国、オードレートは最も北西にある大陸に存在する。
現在地はそこからはるか南西にある大陸で、エストマージという。
これは大陸名でもあり、今いる国の名前でもある。
世界の中心に位置する栄えた巨大国だ。
このエストマージの西と東には、それぞれ巨大国が存在し、同じく大陸名と同一の国名らしい。
西にあるのがアゼルマージ。東にあるのがウラドマージ。
どちらも旅の途中通る必要がある大陸だ。
ただ、エストマージから西のアゼルマージへは直接向かうことが出来ない。
これは海嘯の影響で、西から東へはかろうじて激流の中でも向かえるが、東から西へは押し返されるだけ。
一方通行な上、限りなく危険な渡航となる。
運悪く北へ海路を向けてしまえば、あっという間に大渦に飲み込まれてしまう。
この海流は死の海流と呼ばれて恐れられているらしい。
では、エストマージから南側を経由して向かうのはどうか。
この海は比較的穏やかに見える。しかし、ここには恐ろしい海の生物が多く住まうと
いう。
エストマージの南には、横長に伸びるスレンビーの足跡という大陸があるらしい。
ここも旅の通過点の一つ。
つまり、南にも西全域にも、中心大陸エストマージからは向かえない。
そこで東から向かうしかないわけだが、東にはウラドマージがある。
こちらを経由し、南に向かうとミストレートという大陸がある。
この二つを経由して、スレンビーの足跡へ入るというわけだ。
ちなみに向かう予定は無いが、ウラドマージの北側にはラードレートという大陸も存在
するらしい。
南西にももしかしたらそういった名称の大陸があるのかは気になったが、知ることができた大陸は以上だった。
大陸や町をいくつも越えなければならない旅。
まさに冒険者ならではなのかもしれない。
「……まずは頑張って、試験を受からないとなんだよね……」
「キュー……キュー……」
「ふふふ。可愛いなぁ。ラディにも見せたいんだけど、どうやったら紹介出来るか考えてみようかな。ラディならきっと平気だと思うんだけど……お金も溜まったから、キュルルの服を替えようかな? 革細工整品ってどこに売ってるんだろう……」
「戻ったのだよ。ファウ君、いるかね!?」
「はーい。今行きます先生」
考えていたところで、ネビウス先生が戻って来た。
研究の資料を届けるということで、王国に顔を出していたらしい。
先生は研究者で、国にとって有益となる研究資料を提供する役割を担っていたらしい。
前世で言うなら公務員みたいなものなのかな? でも、少し違う気もする。
何せ家にいる時間が長いし……王国の人を連れて来るのも見たことが無い。
でも、お金は結構もらえてるみたいだから、貴重な研究者なのかもしれないな。
「先生。氷の実験結果です。僕、少しだけ真っすぐ飛ばせるようになりました」
「ふむ。成長が早いのだよ。竜はどうしたかね?」
「氷の息を二回吐いたら、疲れたみたいで寝ちゃいました」
「そうかね。確かに竜の息は消耗が激しい。あの竜は幼竜。無理もないのだよ」
「そうですよね……あの、先生。そろそろキュルルに新しい服を買ってやりたいんです。どこかにいい服を扱っているお店、ありませんか?」
「それなら君の友達に頼んでみたらどうかね? オオグニ族の少年と仲が良いのだろう?」
「え? オオグニ族って革製品を取り扱っているんですか?」
「彼らは手先が器用なのだよ。それを高く評価されて、自治権を得ている。精工な物を作る職人は国の宝なのだよ。前にも話したが彼らは移民。受け入れに感謝し国へ自らが貢献することを名乗り出た。それが族長のアスランだ」
「そうだったんですか……」
「そしてこれも前に言ったのだよ。もし君が本当に信頼出来ると信じたのなら、ここへ連れて来ても構わない。そうしないと彼が竜の大きさや形状が分からないのだよ。もし精工な竜の衣類を作れたなら、竜をラギとして外に出せるかもしれない」
「本当ですか!? 僕、直ぐに行って……」
「まぁ待つのだよ。人の話は最後まで聞くものなのだよ」
「はっ……これ言われたの二度目だ……すみません、先生」
「いいのだよ。嬉しいときは、子供ははしゃぐものだ」
う……前世は十八……落ち着きが無いところは治ってないのかな。
「君はポーラルと伸尖剣を使用したいのだろう? それならば、双方をしっかりとしまえる腰巻や腰袋を用意するといいのだよ。それと、もし作れるならこれは私からの依頼だ。革製の手袋。大きさは紙に書いて渡そう」
「皮の手袋……確かにそれは僕も欲しいかも」
「無論、私のではなく君のものなのだよ。私は持っている。そのまま氷術を使えば君の手は冷たくて耐え切れないのだよ」
「……炎と違って質量のせいか氷は確かに放出するとき冷たいですね」
「しかし手袋を装着すれば、その手袋を通して術を発動することになる。慣れないうちは大変だろうが精進するのだよ」
「はい、先生!」
「うむ。では気を付けて行ってきたまえ。竜は私が見ておくのだよ」
「有難うございます。一人でも大人しく待っていてくれましたけど、まだ心配ですね」
「非常に賢い竜だ。じきに君の言葉もしっかりと理解するのだよ」
「そのときが楽しみです。えへへ……」
キュルルが褒められると自分が褒められたみたいでとても嬉しくなる。
特に理知的なネビウス先生が言うのだから間違いないのだろう。
俺は先生に一礼すると、教えてもらったラディの家に向けて走りだすのだった。




