第40話 強く、なりたい
よく分からない人……いや亜人に胸ぐらをつかまれた後、投げ飛ばされた。
幸いラディが受け止めてくれたけど、二人で地べたに突っ伏す。
その亜人は直ぐに近づいて来て、胸ぐらを再びつかんできた。
「や、やめ……て」
「おい。やめんか。店で暴れるな」
「ふん。ぶつかってきたこいつが悪いだろうが」
「ここはスミグニ族の縄張りじゃない。それ以上暴れるなら族長を呼ぶぞ」
「ああ!? 呼んで見ろ。臆病なオオグニの族長なんざひねり潰してやる!」
「なんだと! お前なんか族長に敵うもんか!」
「あぁ? オオグニのガキが偉そうに何言ってやがる」
俺を放り投げると、その亜人が今度はラディの胸ぐらをつかんだ。
足下に近づき止めようとするが、蹴り飛ばされ、吹き飛ばされる。
痛い……なんて体格の差だ。こんなの、本気でやられたら死ぬ。
「ぐっ。ごほっ、ごほっ」
「やめ……て」
「う、ぐ、苦し……離……この」
苦しそうにするラディを、俺がいるほうに叩きつけて来た。
舌打ちすると、こちらを睨みつけてくる。
「クソガキ共が。殺されないだけ有難いと思うんだな。弱い部族は弱いなりに家に引きこ
もってればいいんだよ」
「……う」
「ぐっ……くっそぉーーーー!」
ラディが勢いよく亜人の方へ突進するのを、俺は止められなかった。
さらに思い切り蹴とばされて吹き飛ぶラディを、受け止めるのが精いっぱいだった。
「おいおい。そんなんじゃ何年経とうが俺に一発すら食らわせられないぜ。才能すらねえってのは可哀そうになぁ。オオグニ族の僕ちゃん。いや、嬢ちゃんか?」
「ガルンフロト!」
足下に狙いを定め、片手を前に突き出してそう唱えると、体から力が絞りとられる感覚があり、奴に向けて地面が凍っていく。距離が近かったので、靴の裏を凍らせることが出来た。
「何っ? このガキが氷のラギ・アルデ使いだと?」
気付いたら、俺は奴に向けて飛び出していた。
もう我慢出来なかった。何も出来ない自分にじゃない。
ラディをバカにしたこいつにだ。
今の自分に何が出来るのか、こんなことしてどうなるかなんて考えれなかった。
でも、初めて出来た自分の友達を踏みにじったことが許せなかった。
「よくもラディを! 取り消せ! 絶対に許さない!」
「ちっ。足下を更に凍らせやがったか! ガキがぁ!」
「おい! 誰かアスランを呼べ! 大至急だ!」
「じじい。てめえは死にてぇようだな!」
「ガルンフロト! ガルンフロト!」
最初の一撃目でせいぜい靴の裏を地面にくっつけた程度だった。
二撃目の攻撃も直ぐにバリっと氷を剥がされ、砕かれてしまう。
続けざま放ったガルンフロトもあっさりと拳で砕かれる。
何て強さだ……今の俺じゃこの程度なのか?
まったく傷一つ、指一本すら自分から触れられそうにない。
奴は腰に大きな剣もぶら下げているんだ。
だが、随分こちらを警戒しているようにも見える。
「ちっ。こんな白装のガキが……」
「ファウ……お前」
「そこまでだ。スミグニのドラグ」
どのように動き、ラディと一緒にどうやって逃げるか……そう考えていたら、お店に誰かが入って来
た。
オオグニ族の大人? 大きい。百九十センチ以上はあるかな。
この世界で見た誰よりも大きい気がする。
「ちっ。スミグニの頭はおめえの首を欲しがってるぜ、アスランよぉ」
「いずれ決着はつく。子供は関係無いだろう」
「ふん。気に入らねえからここでお前とやり合ってもいいんだぜ?」
「ここには王国管理の者も顔を出す。スミグニもオオグニも、この国の者には手出ししない掟だ。また住処を追われたいのか。お前が指名手配されてもいいならこちらは構わないが?」
「けっ。今日のところはこの辺で勘弁してやるよ。その前にだ。クックック。なかなかいい度胸してるじゃねえか。白装のガキ。そっちの小僧と違い俺へ一矢報いやがったんだからな。だが小僧。お前はてんでなってない。弱すぎだ。恥をしりな。白装より弱いオオグニのガキだってことをよく覚えておくんだな」
そう言い残し、スミグニのドラグというやつはどこかへ去っていった。
店の人がテーブルと椅子を直し始めながらアスランと呼ばれた男に近寄る。
「いやすまんね。アスランさん。助けに来てもらって」
「いや……なぜスミグニで一番の荒くれものがここで暴れた?」
「飯を食いに来たときに、ちょうど間が悪くその子たちとぶつかってな」
「そうか……ラディ、怪我はないか」
「くそ。くそおーーーーーーー!」
「ラディ!」
ラディは走って出て行ってしまった。
どうしよう。きっと……俺のせいでもある。
何もしない方がよかったんだ。
ラディはまだラギ・アルデの力を使えない。
なのに俺だけ……。
「君はラディの友達かな」
「はい。ラディがこの店に誘ってくれて」
「そうか。少し話をしないか」
「あの、でもラディは……」
「大丈夫。呼びに行かせよう。何も無い家だが招待する」
「ラディが来るなら……分かりました」
お店の人にもお詫びをして、アスランさんについて行く。
奥に少し向かう方向だが、すれ違いざまオオグニ族の人々は皆アスランさんに会釈している。
信頼されている証拠だ。
――大きめの家に着くと、中に入るように案内される。
室内は、遠い昔の日本を思わせるような板作りの床の家に囲炉裏がある。
余計なものは何もないような家。ただ、武器が……凄く多い。
「何もないところだが座って待っていてくれ。すぐ戻る」
「分かりました」
アスランさんはそう告げると家を出て、直ぐに戻ってきた。
「すまなかったな。スミグニのものが迷惑を掛けたようだ」
「いえ、お陰で助かりました。あの……どうしてドラグという人はあんなことを?」
「血の気が多い部族でな。癇に障ったのだろう。それと、君の肌の色を見て西から来た敵対者だと思ったのかもしれん。我々には他の国の者に見えるのだがね。彼らは……いや。よそう」
西から来た敵対者? どういうことだろう。
よく分からないけど、何か深い事情がありそうだ。
「良ければ詳しく教えて……」
と言おうとしたら手で制された。
「いや、君はまだ子供だ。このような話はすべきではない。我々が解決せねばならん問題なんだ。深く関わらない方がいい。それよりもラディを助けてくれたこと、感謝する」
「いえ、僕は結局何も……出来なかったんです」
助けられてなんていない。
むしろ俺のせいで……そう考えていると、部屋の中にラディが入ってきた。
バツの悪そうな顔をしているけど、怪我の治療はしてもらったようだ。
手加減されていたのだろう。俺もかすり傷程度で済んでいた。
「来たか。なぜ相談なくこの子を連れてきた」
「……友達だから」
「私に相談くらいは出来たはずだ」
「……ご免なさい」
違う! 行きたいって言ったの、俺だ……。
「違うんですアスランさん。悪いのは……」
「お前は悪くねえ! 悪いのは俺だ! 俺が弱いからお前を守れなかったんだ! だから俺のせいなんだよ! 俺はお前よりも弱い! ラギ・アルデの力だって使えないんだ!」
「落ち着けラディ」
「でも!」
やっぱり俺のせいでラディは苦しんでるんだ。
俺が力を使わなければ……このままじゃいけない。
せっかく仲良くなれたんだ。
前世と同じようにしていいわけ、ない。
あのときだってもっと真剣に話せばきっと孤立はしなかったんだ……。
沢山話して、自分のことを分かってもらわないといけないんだ。
ラディとちゃんと、友達になりたい。
「ラディ。聞いて。僕は弱いよ。確かにラギ・アルデの力を使った。でもそれはね、適性を知るのが、ラギ・アルデの力を知るのが早かった。ただそれだけなんだ。僕はそのせいで何度か失敗した。そして女の子一人助けるのに死にかけて……運良く生きられたけど、本来ならとっくに死んでたと思う」
「でも俺なんて、ラギ・アルデの力があるかも分からないんだ……」
「ラディはどんな人を目指してた? どんな風になりたかった?」
「それは……剣士に」
「僕は剣なんて全然使えないよ。剣士にだってきっとなれない.だからさ。ラディは剣を使って戦ってさ。僕が後ろからそれを助ける。そして……うん。二年後、あいつに勝負を挑もう!」
「二人掛かりでか? それは卑怯だろ」
「卑怯ではない。いくつ年齢が離れていると思っている。それにドラグはスミグニの中でも賢く、屈強な戦士だ。二人で倒したとなれば、スミグニにとって大事件となるだろうが……それは難しいな」
「なぜですか? アスランさん」
「決闘をするなら、国が定めた条件、かつ決められた場所で行うべきだ。それには冒険者としての資格か、王国騎士としての資格が必要だ。君たちはどちらも持っていないだろう?」
「それなら……」
あの人は強かった。今のままじゃ全く歯が立たない。
目標は決めていたんだ。それはラディと一緒にがいい!
「あの、アスランさん。ラディって冒険者になれたりしませんか?」
「受けるのは可能だろう。だが、受かるとは思えん。最年少でも十歳の少女が最速だったと聞く」
「僕は二年後、それを超えるのを目標に頑張ります。だからラディも一緒に、受けさせてはもらえませんか? お願いします!」
「……ラディ。お前次第でクルガには私から話してやるが、受けてみるか?」
「冒険者? 俺がファウと一緒に……やってみたい。ぜってードラグの奴を見返してやりたい!」
「二人で冒険者になって、僕とラディ二人の力であいつに認めさせてやろう!」
「ふっ……ラディ。良い友達を持ったな。そう言えばまだ名を聞いていなかった。私はアスラン・クルード。呼ぶならアスランでいい。次からは日を定めて遊びに来い。体の鍛え方は私が見てやる。ラギ・アルデの師はいるのだろう?」
「はい。僕は、ファーヴィル・ブランザスです。ファウと呼ばれています。師にはネビウス先生がいますから、大丈夫です。よろしくお願いします、アスランさん!」
「ああ。随分遅くなった。ファウの家まで送ろう」
――アスランさんに家の前まで送ってもらうと、すっかり暗くなってしまった。
頭を下げてお礼をすると、アスランさんの背中を見送る。
家に入ると遅くなったのを指摘されて、少しだけネビウス先生に怒られた。
ことの経緯を話すと許してはもらえたが、気を付けるように言われる。
決闘のことに関してはまだ話していない。
やれるかも分からない不確定なことは、先生に話すと困惑されるだけだ。
一つ……どうしても気になっていた白装のことをネビウス先生に尋ねてみた。
「白装とは西側諸国に住む部族の名前なのだよ。だが、オードレートの民を指し示す言葉では無い。つまり勘違いなのだよ。外見もまるで違う」
「そうなんですか。似ているところは肌の色ですか?」
「似ているといってもそこまでではない。こじつけで腹いせをされたに過ぎないのだよ」
「う……困った人だなぁ。腹いせで胸ぐらをつかまれ放り投げられるなんて」
「スミグニ族は気性が荒いのだよ。だが、この国に恩義を感じている。さぁ、それより竜を見に行きたまえ。待っているのだよ」
「はい!」
俺はキュルルの下へ走り、扉を開けた。
「キュルルー!」
「ご免ね待たせちゃって。服、外してもらったんだ……あっ」
「キュ?」
「あー! キュルル、翼が少しだけ開くようになったね! わぁ……こうなってるんだ」
キュルルの翼はずっと畳まれたままだったのだが、少しだけバサバサと動かせるように
なっていた。
これも紙に書いておこう!
「キュルル。俺も頑張るから。一緒に頑張ろうね!」
「キュ!」
こうして俺、そしてラディには高い目標が出来た。
冒険者試験を受けて、冒険者になる。
そしてスミグニ族のドラグを二人で見返してやる。
そのために俺たちはもっと成長しなければならない。
やることは多いが出来るって信じてる。
俺にはキュルルにマシェリさん、ネビウス先生やラディがついているのだから。
そして……このエストマージで成長したら、再び長い旅路に出る。
故郷オードレートへの道はまだまだ遠いけれど、いつか大切な家族、キュルルと共に帰
れると信じて。
これで少年編 第一章 出会い 完となります。
第二章までにはお時間がかかりますが、ぜひ気に入ったら評価ブックマして頂けると
創作意欲が上がり、早く第二章がお届け出来るかもしれません!
他の作品でもそうなのですが、それなりに読まれていて評価されない作者……
一年近く続けて若干モチベが下がり気味でございます。
引き続き楽しんで頂ければ幸いです。
第一章までのご感想もお待ちしております。
よろしくお願いいたします。




