第36話 キュルルの竜種
「ネビウス先生。ただいま戻りました。買って来た品物、どこに置いておけばいいですか?」
「キュルルー!」
俺が帰って来ると近づいてきたキュルルを持ち上げてやる。
もう目もパッチリ。元気そうで何よりだ。
地面に下ろすと餌を食べ始める。
「その辺に置いといてくれればいいのだよ。それよりもファウ。君の竜についてだがね。少々変わった竜種なのだよ」
「少々変わった竜種? どういうことですか?」
竜の本は多少はみたけど、竜の種類について詳しく書かれている本は見ていない。
もっと多くの本を読まないといけないのは分かっている。
ネビウス先生は詳しく知っているのだろうか。
「伝説の雪竜コーガ・ユーナを知っているかね」
「コーガ・ユーナ……ええっと……」
どこかで聞いたか、見た気がする。
あれは確か……そうだ。初めて読んでもらった本に書いてあったんだ。
「アルダメシアという王によって封印された雪竜の名前ですよね?」
「その通り。コーガ・ユーナの一族は多い。そのため、竜種としては多い部類となるのだがね。この竜は亜種の部類かもしれんのだよ」
「亜種? ですか?」
亜種と言われても全然ピンとこない。
そもそも竜なんて初めてのことだし、キュルル以外の竜はお母さん竜以外見たこともない。
「この子は氷の息を吐いただろう? 凍りの息を吐く竜自体少ないが、極めて稀というわけではない。しかしこの竜は、息を二種類保有しているようだ」
「えっ? もう一種類の息を見たのですか?」
「いいや見ていないのだよ。今は……としか言えん。しかしこの竜はどう見てもコーガ、ユーナの一族。雪竜の得意な息は氷ではなく雪なのだよ」
「そうか……それで氷を吐く亜種と思ったんですね?」
「その通りなのだよ。二種類の息を持つ竜は稀。しかし今は氷しか吐けぬようだ」
「そうですか。けれど、まだ分からないですよね? 二種類本当にあるって」
「これはあくまで予測なのだよ。しかし本当に大人しい竜なのだよ」
「キュルルはずっとこうでしたから……」
それにしてもキュルルは人見知りをしないな。
俺が人間で、先生やマールさんも同じ人間だからかな。
今もネビウス先生に頭を撫でられて心地良さそうにしている。
「先生。話は戻りますが、結局キュルルの竜種は何なんですか?」
「コーガ・ユーナの亜種で間違いないのだよ。だが、どの亜種に属するのか。それは私にも分からないのだよ」
「コーガ・ユーナの亜種……これも、メモを残しておかないとですね」
「それは買って来た紙に書きなさい。私からの先行投資となるのだよ」
「先行投資? でも、紙一枚で銀貨一枚ですよね……」
「その十枚の紙は君がこの竜を観察し、学び取ったことを書いていく紙となる。大事にするといいのだよ。無論その竜の行動により、私にも利益はある。気にせず取っておくといい」
「わかりました……ってネビウス先生にキュルルが?」
「うむ。それは間違いないのだよ。この竜は氷の息を吐ける。そして私は今、氷の研究をしている」
氷の研究? それで初めて訪れたときに氷の塊が部屋にあったのか。
「一体どんな研究をしていたんですか?」
「氷が部屋にあると、どの程度の時間で室内の温度が低下するかを確認していたのだよ。これは、暑い地方でラギ・アルデによる氷の力がどの程度効果的かを伝えるための仕事依頼。暑い地方では重宝する役割を持つ。氷のラギ・アルデ適性を持つ者は少ないがね」
「そうだ適性! ネビウス先生。僕の適性ってどうやって調べるんですか?」
「まぁ待ちたまえよ。物事には順序というものがある。人の話はよく聞く。本は隅々まで目を通す。これは基本なのだよ」
「そうですね……仰る通りです」
「では話を戻そう。氷のラギ・アルデ適性者は少ない。私は氷のラギ・アルデ適性がある。多くの者が必ずといってもいいほど所持するのが火の適性。これは、ガルンヘルアという炎を灯すラギ・アルデの力だ。なぜ火の適性を持つ者が多く存在するか想像がつくかね?」
火の適性者が多い理由? そんなのあるのかな。
でも、エーテにしろ、トーナにしろ、俺や、マシェリさんも皆ガルンヘルアは使えた。
……日常、火を目にすることが多いから……とか?
「日常の生活で、よく目にするから……ですか?」
「当たらずとも遠からずといったところなのだよ。確かに火は日常目にすることが多い。しかしそれだけではない。最も力として表しやすいのが火だからなのだよ」
「力として、表しやすい……そうすると、風や水もでしょうか?」
「なぜそう思うのかね?」
だって、前世でいうならエネルギー……つまり電気を引き起こすのに用いられるのが火力と風力、それに水力だ。原子力は……力だけどそれってこの世界でいうと無属性ってことだよね。
「ええっと。それらは勢いによって力を生成する……から?」
「素晴らしい。何も情報を与えずそこまで考えた生徒は初めてなのだよ」
「一応ちゃんと、勉強しましたからね。真面目にやってて良かった……」
学校でしっかり勉強したけど、前世の世界はほとんど火力発電に頼ってたもんね。
そうすると、火が多くて無属性も多い? でも無属性なんてどういう力なんだろう?
あ……分かったかもしれない。
「もしかして、伸尖剣の形を変えるコートアートマや雪上を歩くファミアラーラルトの力って、無属性で用いるラギアルデの力……ですか!?」
「……君は察しが良すぎて末恐ろしいのだよ」
「いえ、なんとなくでしたけど……ずっと不思議に思っていたので」
そうか。ちゃんと分類して考えないといけないんだ。
それじゃ、火と無属性までは普通に行使出来る人がほとんど。
ここまでが線引き出来て、それ以外の属性なんかが珍しい部類になるんだ。
待てよ……そうすると氷で力を生み出すのって、稀な力なんじゃ?
キュルルの氷がネビウス先生の役に立つっていうの、すごく理解出来た!
やっぱり話はちゃんと聞かないとだね。
「その顔は、理解出来たようだね。話はしっかり最後まで聴いて欲しいのだよ」
「はい。気を付けます」
「では、ファウ君の適性を調べてみよう」




