表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 竜と共にあらんことを  作者: 紫電のチュウニー
少年編  第一章 出会い
32/169

第31話 急変

「……にわかには信じ難い話なのだよ。このことは私以外に話したかね?」


 転生者であると告げると、ネビウスさんは片腕で肘を支えて考える姿勢を取りそう答えた。

 無理もない。こんな話を仮に前世でされたら、大笑いが発生するだろう。

 あるいは証拠を出せ、嘘をつくなと怒り出す人もいるかもしれない。


「いいえ。ネビウスさんが初めてです。話をしても笑ったり、おかしいと思ったりしない人だけに話すべきだと思いました」

「それはいい判断なのだよ。全く。実に面白い日となったようだ。今はその話、心のうちに留めて置くとするのだよ。何せ私はまだ君のことを良く知らない。マールが連れて来たのだ。犯罪者や出来の悪そうな者で無いことは確かだろう」

「出来の良しあしですか?」

「君はマールと会った時には竜を連れていたのだろう? 育てる者に見合わないと判断したのであれば、マールは君を引っぱたいてでも止めて竜のみをある場所へ連れて行ったであろうからね。君は合格だったということなのだよ」

「そう……ですか」

 

 と、ネビウスさんと話をしていたら、玄関の扉が勢いよく開いた。

 部屋に入って来たのはマシェリさんだ。力が有りあまっているのかな。


「マール。扉はもっと静かに開けるのだよ」

「両手がふさがっていてね。ほら、お腹空いたろ? ここへ来る途中で胃を空っぽにしてきたんだから」

「これは……パン? 有難うございます! うわぁ……この世界に来てまともなパンが食べれるなんて……」

「それはパンという食べ物ではない。ガレットという物なのだよ」

「オードレートにも似たような食べ物があるのか?」

「う……そんなところです。そうか……ガレット。ガッシュみたいな名前だけど、硬さが全然違うなぁ。そういえばオードレートの食前に行う祈りの言葉は分かるんですけど、この国では食べる時に何か唱えたりしないんですか?」

「そのまま標準語で唱えてみたらどうだ? 私は何も言わずに食べるぞ」


 そうなのか。祈りの言葉を思い出す。母さんに教えてもらった言葉だ。

 この世界に来て初めて胸が高鳴る思い出の言葉。

 忘れないためにもずっと続けよう。


「そうですね……それでは天と地を育む大いなるラギ・アルデ。実りある食事の提供に

感謝を込め、祈りを捧げます」


 手を合わせ、祈りを捧げてからガレットというパンそっくりな食べ物を手に取って食べてみる。

 前世だと、ガレットって確か……お菓子に使われるような意味合いの言葉だったかな。

 少し紛らわしい感じはする。

 これはお菓子じゃ無い。

 でも……小麦に何か練り込んだような味だ。

 これだけで食べても美味しい。

 あっという間に平らげてしまった。


「……竜と人を育む大気の神、ラル・ゾナス。ラギ・アルデより賜りし力を我に与えたま

え」


 祈りの言葉を特に不思議そうな顔もせず見届けるマシェリさんたち。

 エストマージにもオードレート出身の人っているのだろうか? 


「もう仕事の報告は終わったのかね?」

「終わらせてきたよ。お金は数えたら全部で金貨十枚だった」

「他所の町で仕事したのに、やっぱり少ない金額ですね……」

「水質調査が金貨六枚。ロブゥの皮が金貨一枚。もう一つの仕事が金貨三枚」

「わかりました。金額、書いて計算しておきますから」

「ふうむ。マールの財布を管理してくれるのか。それなら金貨五枚は引いておいて欲しいのだよ」

「……借金ですか!?」

「そうなのだよ」

「はい。ありがと師匠」


 ……ということは、仕事報告して金貨五枚しか増えていない。

 マシェリさんの手持ちは合計金貨六枚、銀貨六枚だ。

 これじゃきっと、節約しても数十日しか生活出来ないよ。


「マシェリさん。僕、決めたことがあるんです」

「なんだい? 改まって」

「しばらくこの都で働こうと思います。それとネビウスさんを先生と仰ぎ、ラギ・アルデの力を教わるつもりです」

「そうか。いい判断だ。出発は何時頃か考えているのか?」

「三年後……僕が十歳になってからです。それまで僕の出発を待ってもらえますか?」

「ああ。ファウを送り届ける。そう決めたらやり通す。そうでなければ冒険者失格だ」

「マシェリさん……」

「私も教えるのは構わないのだよ。だが、私も毎日暇をしているわけではない。仕事はするのだろう?」

「はい。キュルルにも僕にもお金が必要です。マシェリさんへの借金もありますから……あれ? キュルル?」

「キュルルー……」


 どうしたんだろう。少し元気が無いようだったけど、さっきより元気が無い。

 もしかして……もう熱が!? 

 だって、まだ二日あるはずなのに……そんな! 

 どうしよう。あの本が間違っていた? ……いや、自分自身正確に日時を測っていたつもりだった。

 けれどこの世界には時計や日付を表すものをまだ見ていない。

 もしかしたら自分が寝て起きたのが正確に一日とは限らないんだ。

 どうしよう……もう一つの必要な物についてこれから調べようとしていたのに! 


「すみませんネビウスさん。部屋をお借りします!」

「ああ。この部屋を出て奥。突き当たりの右の部屋を使って構わないのだよ。ただし、掃除をしていない。竜を連れて行く前に掃除をせねばならんのだよ」

「はい。キュルルを少しお願い出来ますか?」

「ああ。引き受けたのだよ」


 急いで言われた部屋まで向かい扉を開ける。

 そこら中ほこりを被ってる。掃除をしないと……はたく物は布しかない。

 

「ガルンウィド」


 突如後ろから声がして、周囲に吹き抜ける風が流れ出す。

 振り返るとマシェリさんが手を差し出して、正面にわずかな風を起こしていた。

 急いで木の板を外し外へほこりを出す。


 風を操るラギ・アルデの力なんてあったんだ。

 初めて見た……あれは俺にも使えるのかな。

 でも、今はそれどころじゃ無いんだった。

 ――次々にほこりを払ってくれるマシェリさんと一緒に、一通り掃除を終えた。

 急いでやったのでバテバテだ。


「はぁ……はぁ……有難うございます。マシェリさん」

「気にするな。師匠、連れて来てくれないか」

「分かった。今行くのだよ」


 この部屋には小さい箱があったので、それをベッドの上に置いてあった布を敷いて、ぐったりしたキュルルをその中に入れてもらう。

 その横の箱には、お母さんの形見である牙や骨、角をしまった。

 これを手放さなければいけないかもしれない。

 でも、これはキュルルのお母さんの形見だ。

 まずは交渉するのが先。

 道具も必要だし……時間が足りないかもしれない。

 

「あの。葉っぱを煎じるようなすり潰すような道具はありませんか?」

「どんな物か調べないとよく分からないのだよ。どういったものだ?」

「店に行ってみるか?」


 ……こんなんじゃダメだ。頼ってばかりじゃないか。

 自分の力でキュルルを守らないといけない。

 マシェリさんばかり頼るな! 

 体を動かせ! 

 自分の足でどうにかするんだ! 


「マシェリさん。どうしようもなかったその時はお願いします。僕……行ってきます! キュルルを少しの間だけ、見ていてください!」

「ファウ!? 待っ……」

「行かせてやるのだよ。あの子は、きっと大丈夫だ」

「でも師匠。この町に来たばかりで何も……」

「彼が部屋に置いていったこのラギ皮紙を見てみるのだよ。驚いた。どんな計算方法なのだよ、これは」

「これは、私の所持金を計算したものか? 不思議な記号が書いてある。こっちはキュルルの治療に必要な物と、自分が覚えたいこと……一体どう教育したらこんな子供が育つんだ」

「あの子は七歳。だが、大人以上の知能を持っているのだよ」

「ファウ……」

「これは、どうやら君の最速登録記録を更新する者が現れたようだね」

「師匠!? まさかファウに冒険者試験を受けさせるつもり?」

「そうなのだよ。目標は九歳。彼ならいけると信じているのだよ」

「たった二年教えるだけで冒険者になれる……そう師匠は感じたんだね」

「もっと早いかもしれない。だが、あの行動を見る限りではエストマージに……いや、この世界になれる必要がある。そう感じたのだよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ