表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 竜と共にあらんことを  作者: 紫電のチュウニー
第三章 ウラドマージ大陸、序幕
102/169

第95話 シカリーウルフと魔物のような存在、ラーダとは

 翌日のこと。

 手早く片付けを済ませてフェスタをしまうと、全員で直ぐに浅瀬を渡りきり、周囲を警戒しながらゆっくりと進む。

 この先は茂みが続き、手強い猛獣……魔物と呼んでもいいような生物がいるらしい。

 

「ここからは陣形を組んでいきまふ。先頭はナギ。中央をミレンさん。左翼をラディさん。右翼をファウさん。後列をミルルさんがお願いしまふ」

十字(クロス)の陣形ですね。分かりました」

「くろ……ってなんだー?」

「ええっと……こういう形の少し恰好良い形のことだよ」


 地面にさーっと下が長い十字を書いてみせる。

 ラディに覚えてもらって十字の恰好良いデザインのアクセサリーを作ってもらいたいなぁ。


「まふ。格好良い響きでありまふ! 今後はそのように呼びましょう。この陣形は最も前衛に攻撃が集中しまふ。ナギにしっかりついてきて欲しいでありまふ」

「ふぁ、ふぁい。わりゃし、きき、気を付けるれす」

「そんなに気を張るなって。何が出ても俺たちで対処するからさ」

「全部わりゃしのせいなのに……」

「気にすんなって。それに俺は冒険出来て楽しいんだ」

「ラディは凄いや。僕はまだ怖く感じるよ」


 この世界に生まれ変わって九年。

 未だに怖いものは怖い。

 全部アルジャンヌ位の大きさだったら驚くこともないんだけど。

 その点ラディは凄いと思う。

 自分と一つしか年が違わないのに、自分より大きい相手に前衛として立ち向かっているんだ。

 二年前、エーテを逃がすために戦ったグラヒュトウルのときだってそうだ。

 どれほど足が竦み、怖かったことか。

 

「ファウさん? 大丈夫ですか?」

「あ、うん。ご免なさい」

「なーに。何が出てもファウの術はすげーんだ。大丈夫だぜ」

「キュー!」

「そうそう。それにキュルルもいるしな」

「ナギもいまふ! 安心して下さい」


 先へ先へと進むにつれ、徐々に茂みの高さが上がっていく。

 浅瀬から続いていた歩道とは大きく外れて北へ向かっているのだが、この先に鈴の音の洞窟がある。

 そして……前がかなり見辛くなってきた頃。


「警戒を。ここらを縄張りにしているシカリーウルフがいまふ」

「ん? 何も聴こえねーけど」

「音ではなく足下を」

「んー。何もないぞ?」

「座ってたような痕跡がありますね。高い茂みが折れてる場所がいくつかあります」

「はい。草に身を伏せてしばらく待機していたような跡が残っていまふ」

「はわわ……どど、どうするのれす?」

「これは見張りの分だけです。ナギが先導してきますから、お二人は戦闘の準備を」

「分かった。先導なら俺の方が早くねーか?」

「見くびってもらっては困りまふ。ナギはツファル族でありまふから」


 そう言うと、ナギさんは膝をぐっと曲げると凄い速さで前方に生えていた少し高い木へと飛び移ってみせた! 

 なんていうバネ。凄い……距離で言うなら数十歩以上離れた位置にあった木へ、ラギ・アルデの力も使わず飛び移るなんて。

 でもウルフっていう位なら、音や匂いでこちらの居場所はばれているんじゃないのかな。

 しかしそう考えていたのも束の間。

 ナギさんはそこから木を利用して一直線に西側の叢へ飛び移ってみせた! 

 高い茂みで良くは見えないが、どうやらシカリーウルフという獣を補足して攻撃開始したようだ。


「ギャオーーーン!」

「掌底、連打でありまふ!」

「すっげぇ!」

『ワオーーーン!』

「お二人とも! 三匹来ます! 一匹は引きつけます!」

「ファウ、行くぜ! 新大陸の初陣だぁー!」

「うん。頑張る……」

「キューー!」

「怪我をしたら私が援護しますから! 気を付けて!」

「が、ががが頑張ってれす!」


 こんな小さな女の子だって逃げずに応援してる……それなのに脚がまだ震えてる。

 僕は、臆病だ。情けない。

 キュルルだっているんだ。

 震えるな……落ち着け。


「コート、アートマ!」

「キュー!」

「グルルル……」


 ラディは西側から一直線に茂みへと突き進んだ。

 ナギさんは叢で戦ってる。

 こちらに一匹向かって来る動きが茂みの動きで分かる。

 キュルルがラディのいた場所へ氷の塊を吐き出して、側面からミレンたちが襲われるのを防ぐ。 

 ……来た! 

 一匹……一際大きな茶色の狼だ。

 目が……赤く光ってる。何て不気味なんだ。

 これが……獣? いや、絶対違う! これ、魔物だよ! 

 西側から東側へと大きく回り込み、俺を敵と見定めたソレは、一直線にこちらへ来た! 

「うわあーーーーー! ガルンヘルア!」


 三又に分かれた新たな武器、伸尖剣ゼフィスから大きく燃え盛る炎が三列に並びまっすぐ方正面を焼き尽くす。


「ひゃ、ひゃうーー!」

「す、すごい……あんな大きな炎。まさか、とても強いラギ・アルデの力? でもファウさんは確か……」


 俺は恐怖のあまり三又に変形させた伸尖剣から全力でガルンヘルアを放出していた。

 正面に三つの炎が通り、茂みが燃えた跡だけが残る。

 それは正面から真っすぐこちらへ向かってきていたシカリーウルフの避け道を完全に封じ、吹き飛ばした上に焼き尽くしていた。

 こちらが一匹を対処している間に、ラディもナギさんもシカリーウルフを仕留め終わっていたようだ。


「……はぁ、はぁ。まじかよ! すげー、なんて切れ味のナイフなんだ」

「まふ。お二人とも凄いです。お師匠様も取り越し苦労だったかもしれません」

「ナギさんにラディも無事?」

「ああ。こっちのは小さくてすばしっこかったけどな」

「こちらもです。ファウさんに向かった方が大物でした」

「ファウさん! 冒険者側の方に相反のこと、書かれていませんでしたよ!?」

「あの、秘密にしておいてもらえませんか?」

「もうー。私が専属担当だから良かったですけど。そんな珍しい冒険者、直ぐに知れ渡って大騒ぎになりますからね。火と水の相反は本当に珍しいんですよ?」

「ナギも喋らないでおきまふ。深い事情があるんですよね」

「わりゃしもファウさんみたいにラギ・アルデの力を使いたいれす……そしたらお母さんをもう少し助けられるんれすけど」

「ラギ・アルデって誰にでも使えるものなんじゃねーのか?」

「そうですね。でもね、ミレンちゃん。男の人に守ってもらう女性っていうのも良いものじゃない? 恰好良い王子様が守ってくれて……キャー!」

「それはえーっと……そ、そうれすね……」

「ナギの種族は強い女がモテまふ! だからナギは強くなりまふ!」

「あはは……ナギさん十分強いと思うけど」

「全然でありまふ。お師匠様にぼこぼこにされたでありまふから」

「ひっどーい。あの人、女性相手に手加減とかしないんですか!」

「いいのです。修行の身の上でありまふから。ファウさん。先ほどの戦闘をみる限り、力の制御が出来ていないようでありまふね」

「僕、怖くて……」

「怖いのは当然です。お二人とも、とても才能があるように思いまふが、経験が著しく不足していまふ。ナギには少々早い気もしまふが、きっとお二人の戦闘へ助言をしろとのことと思いました」

「俺もファウも、さっきみたいな向こうから襲って来る獣を相手にしたことがあんまりねーな」

「……あれって本当にただの獣ですか? 僕の知識でいう魔物に該当すると思うんです」

「確かにただの獣では無いです。あれはラギが負に偏った存在でありまふから」

「ラギが負に偏った存在? 何だそれ」

「エストマージは緑に恵まれた良い土地だと聞いていまふ。お二人はこれまでどう猛な相手に襲われたことはありまふか?」

「僕は一度あります。死ぬかと思いました。グラヒュトウルという……巨大な生物でした」

「それは間違いなくラーダという状態の獣でありまふ」

「ファウさんもラディさんも冒険者としての仕事で討伐はほとんどしていませんからね。私もまだ早いと思って選んでいないのですが……冒険者依頼にはラーダ種の討伐が多数あるんですよ」

「ラーダ……っていう状態を示す言葉ですか?」

「いいえ。生命の過程でそうなると聞いたのでありまふ。ラーダに分類されるのは体になにかしらの特徴がありまふ」

「ラギ・アルデの力がどこかへ集約され変色する。研究は進められているようなのですが、詳しくは分かっていませんね」

「つまり、竜にもそのラーダ……と言われる分類のものが存在する?」

「はい。そしてどれもどう猛な竜となりまふ。ラーダではないシカリーウルフも存在しまふ。見れば直ぐに分かりまふが……気を付けなければならないのはここからです。ただのシカリーウルフであればそのような例は無いのでありまふが、強力な個体であれば、ラギ・アルデの力をその部位から行使してきまふ」

「うげぇ……目から火を吹いたりもするのかよ」

「はい。格下と思い侮って戦った同胞が何人か命を落としたのを見た経験がありまふ」

「……その強力な個体を見分ける方法はありますか?」

「その部位からより強い光を発していまふ。ですが経験が無いと見分けるのは難しいかもしれません」

「一応鈴の音の洞窟に関する情報を確認したのですが、そこまで強い個体はいないと思います。というよりもいたら止めてますから」

「それにはナギも同意見です。お師匠様も我々だけで向かわせませんよ。さ、行きましょう」

「はい……キュルル?」

「キューールル!」

「ああ。ファウが燃やしちゃったとこ、消してくれてたんじゃねーか?」

「そうだった! このまま放置したら火事になるかもしれないもんね。ガルンリキド!」


 その後まだ少し燃えているところをキュルルと一緒に消して、鈴の音の洞窟へ向かう道を急いだ。

 どうやら打ち放った炎の影響か、それ以降シカリーウルフに襲われることは無かった。

 叢をかき分け進んでいくと、岩壁をえぐりとったような洞穴が見えて来る。


「あれが……鈴の音の洞窟ってやつか?」

「はい。この辺りでは有名な洞窟ですから。多少の鉱物が取れる位で、特にこれといったお宝はありませんし、人気の無い洞窟です」

「でも、婚姻の儀を破棄するのに使われるんだろ?」

「それこそ中々起こらないんですよ。女性がこんな洞窟に行きたいと思います?」

「ああそっか。気に入った男にしか近づかねーんだな……待てよ。そーすっとドラグに近づいてた姉ちゃんたちって……」

「本気だったんだね。もしドラグが間違って話しかけたら、担いで洞窟に放り込むと思うよ……」

「それ以前に無視するんじゃねーか? 俺が知ったことかよ! とか言ってさ」

「あはは……そうかも。ナギさん、このまま進むんですか?」

「はい。少々休憩したら進み、今日中に終わらせてしまいましょう。お師匠様は時間にうるさい方なので」

「分かりました。覚悟を決めます」


 まだ戦ったばかりで怖さが残っている。

 何が怖いって……自分が死ぬことを考えるよりも、目の前にいる人たちやキュルルが傷を負ったとき、自分がどれほど冷静じゃなくなるのか。

 もしラディが、ミレンが、ミルルさんが、ナギさんが致命傷を負うようなことがあったら。

 そう考えると怖くて怖くて仕方が無かった。

第三章に入りまともな戦闘一回目。

この世界で確認出来る狂暴な魔物といえる存在に遭遇しました。

シカリーウルフの初登場です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ