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異世界転生 竜と共にあらんことを  作者: 紫電のチュウニー
第三章 ウラドマージ大陸、序幕
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第94話 ナギさんのお話

 港町を出てしばらくは順風満帆な旅路だ。

 あぜ道を通り、周囲を観察しつつも暑さを感じながら皆で話をして歩いている。


「まふっ!? 水のラギ・アルデ術を使えるのですか?」

「はい。強い力では無いんですけど。やっぱり貴重ですか?」

「この大陸ではあまり知られない方が良いかもしれませんね。専属担当としては非常に誇り高いのですが、ファウさんは知る限りでも特別なことは間違いありません。氷を吐き出す竜を連れてる冒険者というだけでも目立ちますから」

「なんだ。ファウみてーに竜を連れてる冒険者もけっこーいるのか? それなら俺も竜を連れて歩きたいぜ」

「決して多くはありません。何せ竜は高度の知能を有する生物ですから。なかなか人間に屈したりはしないんですよ。ましてや氷竜なんて……この辺りには一匹も生息していません」

「ここは暑い国れすから。氷だけでも高いんれすよ」

「そっかぁ。良かったなキュルル。貴重だってさ」

「キュー? キュー……キュ!」

「あはは。自信たっぷりって感じの表情だね」


 そんな会話をしながらも、浅瀬に入る手前辺りまでは順調に来れた。

 道中は食用のマルンモー一匹に遭遇したのみで、華麗にナギさんが打ち倒してみせる。

 実力を見る限りでは、ナギさんの種族、ツファル族は跳躍力が凄まじい。

 脚力と身軽な体系を活かして跳ねるように飛びつき、打撃攻撃を加える。

 ただ、身軽な分踏ん張りは効かないので、圧倒的な力を受け流す練習をしているそうだ。


「まともに強い攻撃を受けてしまうと辛いのです。いつもはお師匠様が助けてくれるから大丈夫なんですけど、今回のご依頼はお師匠様がいないので、少々不安がありまふ」

「ナギってどこの出身なんだ? 港町に同じ種族の奴ほとんどいないだろ?」

「ゼフィスさんとはどうやって知り合ったんですか? ……っと、これだと質問攻めですね」

「いえいえ。私もお二人の旅の話がお聞きしたいのでありまふ。ナギはウラドマージの北方にあるツファルの村から来たのでありまふ。水産物を商いにして細々と生きてるでありまふが、ナギにはどうしてもやりたいことがありまふ」

「へぇー。村から一人で出て来たのか」

「ゼフィスさんと知り合ったのはウラドマージなの?」

「はい。あれは忘れもしない四年前でありまふ。いつものように水産物を売りにウラドマージへと到着したのでありまふが……」


 ウラドマージへと到着する頃に、水産物を全てダメにしてしまったというナギさん。

 道中崖崩れにあってしまい、向かう経路を変更したところで道に迷い、その結果到着予定日が大幅に遅れた。

 その水産物を見て途方に暮れていたナギさんを、全て買い取るといって現れたのがゼフィスさん。

 しかし何か裏があると踏んだナギさんはそれを断った。

 このような売れない商品を買い取る商人なんているはずがない。

 これらは全部腐りかけで、とてもじゃないけど使い物にならないとも説明した。

 しかし……「お師匠様はこう言いました。真実を語るものの商品は腐りかけでも、売り手は決して腐ってなどいない。お前からは金の匂いがする……と仰ったのでありまふ」


 ここまでの話を聞いただけで、胸の前で両手を組み、ウルウルしているミルルさん。

 そしてキラキラした顔をするミレン。

 

「それでそれで? その商品を全部買い取ってもらってどうしてゼフィスさんがお師匠様に?」

「ええっと。実はその商品は全部違うものへと作り返る作業をやらされたのでありまふ……」

「つまり、働かされたってこと!?」

「そうでありまふ。ナギには無かった発想で驚いたのでありまふ」

「そうか、ナンプラーにしたんだ。でも、知識を持ってないと発案出来ないよ。あの人、相当な知識人なんだ」

「はい。仰る通りお師匠様は知識深い商人でありまふ。ナギは尊敬しておりまふ」

「それで弟子入りしたのか?」

「いいえ。ナギが弟子入りした理由。それは……ナギもいつかはお店を持ち、商売をしたいと考えていたからでありまふ。お師匠様の言う、真実を語るものの商品は腐っていても、売り手は決して腐ってなどいない。そして腐ったものでもちゃんと売れる商品として扱えてしまう心意気に、この人しかいないと思ったのでありまふが……」

「あの人、弟子とか取らないように思えるけどな」

「うん。だからナギさんを紹介してもらったときにちょっと驚いたんです」

「ナギはまだ雑用なのでありまふ。師匠にちゃんとした弟子として認められるにはいくつかの条件を達成しないといけないのでありまふ。そのうちの一つに今回の同行も含まれるのです」

「げっ。俺たちまんまとゼフィスの兄ちゃんに利用されたんじゃねーか?」

「あはは……そんな気はしてたけど。でも僕たちもナギさんと冒険出来るのは嬉しいかな。僕、獣人のお友達ってラディくらいしかいなかったから」

「あら。あの素敵な男性はお友達ではなかったのですか!?」

「ドラグのこと? ドラグは……僕らの目標みたいな存在かなぁ」

「あいつ、すげー強いけど、昔ぶっ飛ばされたんだ。悔しくてさ」

「見返すべき大きな存在……そして打ち倒したとき……くっ。俺の負けだ……お前ら、強く、なった、な。キャーー! 素敵な展開! ぜひ間近でっ! あうっ。今から想像しただけで鼻血がっ……」

「おーい戻って来い姉ちゃんー」

「ナギの目にはお師匠様並みに強そうな気配がある人だと見受けたのでありまふ」

「怪我してるって言ってたよね。それが原因であまり力が出せないのかな」

「どーだろ。あいつ船の上でずっと筋トレばっかしてたからな」

「みみ、皆さんっ! そろそろ浅瀬が見えて来たれすよ!」


 更に話しながらも歩みを進めると……綺麗な浅い川が見えて来た。

 貴重な水場だろうし、ここまで来る人も多いのだろう。

 ちらほらと港町の住民と思われる人たちがいる。

 だが、この先に進む人は誰もいないようだ。


「ここから先は危険でありまふ。休憩するならこちらでしましょう」

「そうだね。こっちはラディと僕で。そっちは少し狭いかもしれないけど三人で……」

「あらぁ。ミレンちゃんはそちらでも構わないんですよぉ? まだ子供同士ですしね?」

「わわ、わりゃしは、恥ずかしいのれす……あの、ももも、ご飯の支度するれす!」


 走って川の水を汲みに行くミレン。

 ミルルさん、悪ーい笑顔してますよ!  

 俺たちも急いで食事の支度をする。

 今日はナギさんが倒してくれたマルンモーの肉だ。

 ラディが鮮やかな手さばきで加工処理してくれて、食べられる分を持って来てくれた。

 残りの分は無駄にならないよう、それと安全のためにちゃんと獣が食べられるよう道から離れた木の部分に置いて来た。

 石を綺麗に洗い……それをラギ・アルデの火の力で熱していく。

 十分に熱したら薄く切ったマルンモーの肉を焼き、塩をまぶしていていくと、香ばしい匂いが周囲一帯に広がっていく。

 主食は宿屋で食べた穀物。

 これがマルンモーのお肉と良く合って実に美味しかった。

 食べ終わる頃には日も沈みかけて来る。

 見張りは交代で二人で行うこととし、ミレンにはぐっすり眠ってもらう。

 俺はナギさんと最初の見張りをして、その間に様々なことを伺った。

 特に獣人、亜人に対するこの世界での知識について。

 そもそも獣人、亜人などと言われる差別的用語は相応しくないと考えていたのだが、この世界においての呼び名としては相応しいらしい。

 差別的な用語ととらえるよりも、種族的な名称を上げていくときりが無いほど様々な種族がいるとのことで、とても驚いた。

 いわゆる標準語として覚えた言語を使えない種族も存在しており、かつ野蛮的な種族も多く存在する。

 それと、気になったのがこの大陸のことだ。

 南側へ向かうと砂漠地帯が広がっているらしいのだ。

 砂漠を通らない迂回路もあるらしいのだが……「大陸東の果てから南下する道があると聞きまふ。ここからだと恐らく半年は掛かる計算ですね」

「半年!? そんなに遠いのですか」

「遠いというよりも安全な道をたどらないといけないので。命を落とす危険を避けると、道は複雑でありまふ」

「普段商人さんは南の大陸に向かうことは無いのですか?」

「もちろんありまふ。ゼフィス商会の別の商隊が砂漠を通り南に向けて出発してまふ。そちらの方が現実的でありまふ」

「砂漠……やっぱり大変ですよね」

「乗り物がありまふから。そうでもないと思いまふ」

「乗り物……?」

「はい。砂漠の上を走る乗り物がありまふ。もちろんラギ・アルデの力がなければ動かないのですが」

「楽しみです。乗り物かぁ……」


 想像するのは砂漠の上を走るようなバギー? 

 でも、そんな文明的なものがこの場所にあるのかな。

 だとすると……ラギの力で動くラクダとか? 

 いずれにしても鈴の音の洞窟の一件が片付いてからだ。


「さて、そろそろ交代の時間でありまふ」

「僕はこのまま見張りしますよ。ラディはいつも寝起きが悪いから」

「まふ? 無理はしない方がいいですよ。明日にはもう鈴の音の洞窟でありまふから」

「大丈夫です。お休みなさいナギさん」


 この先のこと。それを考えると少し気が遠くなる思いと、エーテの顔が思い浮かんでしまった。

 あの後……一体どうなったんだろう。

 自分は生きてる。生きているけど、エーテはきっと自分が死んだと思ってるに違いない。

 それを考えるだけでも怖くなった。

 責任で押しつぶされるような思いがした。

 ずっと考えては来なかった。

 でも、家までの道のりがあまりにも険しいことを痛感して……くじけそうになっていた。


「ファウ……おあよ」

「ラディ!? よく、起きれたね」

「んー。お前がまた一人で見張りしそうな気がしてよ。どうした? 顔色悪いぞ」

「ううん。何でもない。大丈夫」

「ほんとか? んじゃ変わるから寝ておけよ」

「うん……あのさ、ラディ」

「なんだ?」

「僕……家に帰れるのかな」

「んー。ぜってー帰る必要ってあんのか?」

「えっ?」

「ファウって大人みてーにすげー細かいところまで気を付けるだろ? ゼフィスの兄ちゃんとのやり取りだってファウがいたから上手くいったんだし。俺には真似できねーと思うんだ。ファウならこの町でだって生きていけそうだしさ。家族は心配かもしれねーし、俺だって心配だ。でもさ。故郷って住み辛いところだったんだろ? なら、この辺に住んじまえばいいんじゃねーのか?」

「それは……僕、両親にきっと死んだと思われてるんだ。だから……」

「それは多分……俺もじゃねーかな」

「そっか。そうだよね。僕たち、親不孝者だなぁ」

「ははっ。そんなことねーって。心配掛けるのは子供だったら当然じゃねーのか」

「あはは……そうだね。そうかもしれない」


 でもラディ。心配掛けてるのは親だけじゃない。

 自分のせいで俺が死んだかもと思ってる子もいるんだ。

 きっと責められてる……いや、自分で自分を責めてる。

 だから早く帰って元気な顔を見せてあげたかった。

 エーテのためにもここでくじけちゃいけないんだ。

考えればくじけそうになること。

それでもくじけそうな状況を振り払うのは、相手の心情を想像して無事を告げたいと願う自分自身の心です。

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