(3)
次話で完結します。
最後までお付き合いください^_^
「だーめだめだめ! こんなのうちじゃ引き取れません!」
親父はルビーだかどんぐりだかわからない粒を全部両手で払い落とした。
女は口を尖らせ不満そうにしていたが、再びけろりと続けた。
「じゃあこれは?」
「……まだ何かあるんですか?」
は、また指をパチンと鳴らす。
すると店の天井まで届く大きなピンク色の煙がモコモコとあがった。
親父の視界はピンク色に染められた。
やがて煙が捌けると、そこにはさっきまではなかった金剛力士像がそびえ立っていた。
石でできたその像は、手狭な店内に対してあまりに巨大で、肘や金剛枡がガラスケースや棚にめり込み、そこらじゅうにヒビが入っていた。
「わーーーーー! なんだこりゃ!
デカ過ぎ、重過ぎ!
見ろ、そこのロレックス入ってるガラスケースに枡が突き刺さってるじゃねーか!」
「いや、でもこの力士像、マジモンの国宝級のヤツ。
しかも、『あ』のほうね。ほら、『あ・うん』の『あ』」
「そんなの知るか!」
「これ、作られたの鎌倉時代だよ。マジ古くない?
で、で、おいくらぁ? 今度はめっちゃ自信あるし!」
「引き取れるかーーーー!」
「うっそ! ダメなの!?」
「こういうの預かってくれるのは、美術骨董のお店! うちは違うの」
「そうなんだ!?」
「それか博物館にでも持ってけ!
てか、美術骨董の店だっていきなりこんな石像持ち込まれた迷惑だぞ!
店ん中ぐっちゃぐちゃになるだろ」
「そうかも! てか、今もうぐっちゃぐっちゃだもんね」
「そもそもこれ、うちの自動ドア通らねえじゃねえか。
どうやって外に出すんだよ! この高さと幅! どう見ても不可能!」
「たしかにィ!」
「『たしかにィ!』じゃねえよ! もー無理無理無理!
うちで扱えるのは、ブランドもののバッグとか、腕時計とか、宝石とか……」
「宝石さっき出したじゃん?」
「だから、あれはどんぐりだろ! どんぐりじゃダメなのよ。
うちはね、そう……貴重品! うちで扱えるのは貴重品だけ。
どんぐりはその辺に落ちてるから。貴重じゃないの、全然。むしろありふれてるのよ。わかる?」
女は、やっと理解ができたというように、切れ長の目をパチッと見開いた。
そして、鬱陶しいくらいにうんうんうんと繰り返し頷いた。
――変な女だが、たしかに美人なのは美人だ。
親父は一瞬女に見惚れた。
(3)
「なぁーるほどお! 貴重品だね、おじさん。貴重品なら、あるわよ」
「なんだよ。俺はもう期待しねーぞ……」
聞こえたのか聞こえなかったのか、女は相変わらずのあっけらかんとした表情に戻った。
それから再びレジ台の上でパチンと指を鳴らした。またもやピンクの煙がモコモコッと上がる。煙の中から、何やら一枚の水色のカードが現れた。
「……なんじゃこりゃ?」
親父はそのカードを手にとってみた。プラスチック製のカードで、小さな文字がたくさん印字されている。
親父はメガネをおでこに載せて、カードを顔に近づけると、老眼の目を細めながらそこにある文字を読み上げた。
「……記号4444568***……狐山どん子……?」
そして、カードをレジ台にバンッと叩き付けた。
「健康保険証じゃねえか!」
「あたりっ! あたしの一番の貴重品でっす!」
女は両手とも指をキツネのかたちにして、ウインクしながら親父に向かって「コンコン!」と動かした。
「たしかに貴重品だけれど! そういう意味じゃないの!
ダメ、無理無理無理。無理だから! 一銭にもなりませんから。
いりません。お返ししますっ!」
親父は、健康保険証を指先で弾いて女のほうに突っ返した。
「あのねぇ、これは自分で持ってなきゃダメ。
そもそも質草になんないけど、かといって質に預けていいようなもんじゃないでしょ。
大事にしまっときなさいよ。……って、なんでこんなこと俺が説教しなくちゃなんねえんだ」
「なあんだ、これもダメかあ」
女が口を尖らせると、健康保険証がドロン! と茶色い落ち葉に変わった。
「どのみち、葉っぱじゃねえか!」
「うん?」
「『うん?』じゃねえ! あんたが持ってくるものは全部ダメ!
結局全~~~部、葉っぱか木の実じゃねえか。
まったく、キツネかタヌキか知らねえけどなあ。化かして作ったものをお金と交換することは、一切できません。できないんです! さあ~、帰った帰った!」
次で完結です〜