(1)
はじまりました!
「おじさーん、これっていくらになるぅ?」
とある質屋のカウンターに、派手な身なりの女性客がやってきた。
しゅっとした面長の顔に切れ長の瞳。
髪の毛はばっちり巻かれ、ミニスカートに黒いブーツ。
しっぽのようなふさふさのキーホルダーをバッグにつけている。
かなりのべっぴんだ。水商売の女かもしれない。
これはいいものを持ってそうだと、質屋の親父は期待した。
「どれどれ、見てみましょう」
「はーい!」
女がバッグを逆さまにすると、小さな茶色い粒がコロコロとカウンターに落ちた。
それは、どんぐりの実だった。親父は思わず、椅子からずり落ちた。
「いやいやいや、バッグからどんぐりって! お客さん、こんなん引き取れませんよ!」
親父はズレたメガネを直しながら呆れた。
心の中で「ヤぁバい客きちゃったなぁ~」と嘆きつつも、顔には出さず接客を続ける。
「こんなどんぐり、そのへんに落ちてるもんじゃないですか。
そんなんにいちいち値段つけてたら、うちのお店潰れちゃうから!」
女はしばらくきょとんとした顔をしていたが、「そおかしら。それなら……」と、どんぐりに向かってパチンと指を鳴らした。
その瞬間ピンク色の煙がモコッと指から湧いた。
そして、煙が散ったあとには、どんぐりの数だけの大粒のルビーがあった。
カウンターにゴロゴロ転がるルビーを見て、親父は大興奮した。
「うひょっ! うひょっ! ちょぉぉぉっと!
こんな大粒のルビーがっ……ひい、ふう、みい……! 10粒も!」
「これなら、お金貰えるぅ?」
「もちろんです! もちろん、もちろん!……でもこれって、さっきまでどんぐりでしたよね?」
「てゆーか、今もどんぐりよ」
「……んっ……?」
「んー、まあ、なんていうか術で一時的にルビーに見せてるだけだから」
「ま、まさか! 次の日どんぐりに戻っちゃうとか?」
「戻っちゃうというか、今もどんぐりなのよ。ただ、ルビーに見せてるっていうだけで」
「はあ~~~~~? 一体どういう……」
ルビーをよく見ようと、親父が指で持ち上げると……。
「軽ッ! めちゃくちゃ軽ッ!」
「うん。だからさ、ルビーに見えてるだけで、それどんぐりだからね」
「じゃあだめじゃねえか!」
親父は思わず、手に持っていたルビーを投げ飛ばした。
床に落ちるときの「スコーン!」という乾いた音も、まさにどんぐりそのものだった。
よろしくお願いします^_^