03.
03.
翌日の同じ時間。
あの男は、またやって来た。
「いらっしゃいませ!」
「………」
眼鏡の奥──レンズ越しの瞳が、何故か俺を真っ直ぐ見つめている。
昨日は殆どショーケースの菓子を見ていたのに……やっぱり昨日、翼が彼の事を「鉄仮面の人」なんて呼んだから、怒ってるのか?
「……昨日の、試作品と言っていた菓子だが」
「はっ、はい!」
「苺の甘味と酸味が、とても良かった……タルト生地もサクサクで、良かった」
「え……?」
こ、これは……試作品の感想、なのか?
という事は──!
「食べてくれたんですね!佐藤さんのお菓子!!」
「?あ、はい……」
「こらっ、翼!買ってくれているって事は、そういう事だろうが!」
「えー?でも佐藤さん、家族や恋人へのお土産かもしれない、って……」
「ちょっ、余計な事を言うな!!」
本当に翼は、正直すぎて困る……。
これが彼女の長所であり、短所でもあるわけだが。
「……お二人は、仲が良いみたいで」
「あっ、私には夫と二人の可愛い子供が居るので!佐藤さんとは、師弟関係なだけです!」
「翼……もう、お前は黙っててくれ……」
全く、この馬鹿正直な弟子は……。
「……今日は、これと……それと、あれまで」
「あっ、はい!ありがとうございます!!」
あ、これって確か──。
「昨日も買ってくれましたよね、シュークリーム!もしかして、お好きなんですか?」
「……ああ」
「これ、定番商品として数を多く置いているので、よかったらこれからも宜しくお願いしますね!」
「そうか……では、また」
そう言って、相変わらず表情は全く変えず、男は菓子の入った箱を手に、店を出たのだった。
「……シュークリームの件。俺が聞いて、言いたかったのに……」
「え?」