妄想の帝国 その71 ニホン国ジコウ党首相最後のオンライン会見
ついに新型肺炎ウイルスに感染したニホン国首相。官邸での療養中、記者クラブでの定例記者会見をオンラインで行うこととなったが、とんでもないことが起こり…
某ニホン国記者クラブ一室。
大型スクリーンの前で記者クラブの面々がマイクに、スマホに手帳を手にし、ニホン国首相キジダダガース氏の会見を今か、今かとまっていた。
本日は定例の記者会見でだが、今回は初のオンライン開催。世界中で猛威をふるう新型肺炎ウイルスは変異を繰り返し、ついに極東のニホン国の首相まで感染したのである。市井の民がちょっとぐらいの熱なら自宅療養を強いられ、PCR検査すら受けられない中、迅速な検査と各種薬品の投与で幸い重症化は免れたもののさすがに職務は官邸内での執務に限定。海外はおろか建物の外すらロクにでられないため、会見もネットを通じてとなった。
どうせネットなら、わざわざ記者クラブに集まらず、各社のパソコン、タブレットでもいいじゃない、記者クラブに限定せずにジャーナリスト自由参加しないの~という当たり前の疑問もよそに、スクリーンにマイクを向ける記者たち。傍からみれば、かなり異様な光景だが、やってる本人たちはいたって真面目。長年の悪しき慣習で感覚がすっかりマヒしているようである。
「は、早くはじまらないか。初めてのオンラインは緊張するな。声を聞き洩らさないようにしないと、マイクでちゃんとひろえるだろうか」
と某黄泉瓜新聞記者は緊張の面持ち。あのー、それスクリーンじゃなくてスピーカーにむければ?そもそもスマホかタブレットを直接つなげばというツッコミは記者クラブ所属の記者たちの耳には届かないようである。
と、スクリーンにキジダダガース首相が映った。
『皆さん、こんにちは。さっそく重大発表があります』
画面を食い入るように見いり、マイクを向ける記者たち。
『カルト集団との長年の癒着を取りざたされ、さらに役立たずの布マスク他国民の税金を湯水のように使い、使えない武器を買いながら防衛費増強などバカげた政策をやり続け…』
と長きにわたる自党のトンデモな政策、平議員をはじめトップクラスまでの幼稚で品性下劣な言動をひとしきり挙げ
『このような行いをし続けたこと、国民の皆様に本当に申し訳ございません。よってジコウ党は即時解党。私を含むジコウ党議員全員辞職、二度と政界には戻りません。さらに今までの議員報酬、政党助成金、そのほかもろもろ全額お返しし…』
記者クラブ一同呆然。が、呆然としていたのはここだけではかった。
「ギャー、なんで、こんな会見がー!これは私ではないぞ」
と叫んでいるのはキジダダガース首相。自分の会見をテレビ画面でみている最中である。
「こ、こんな会見してないぞ、ワ、私は。確かに映っているのは私だが、こんなこと言ってない」
と自分の顔を指さして怒りに震えるキジダダガース首相。側近の一人が汗をふきふき
「しゅ、首相、その、会見のサイトといいますか、どうも外部に乗っ取られたようで」
「な、何―!我が国のデジタル庁は何をしているんだ。こ、これは立派なサイバー攻撃だぞ」
「そ、それが、そのデジタル庁のネット対策といいますか、実務は下請けの下請けがやっておりまして。そこからその、侵入がされたのかもしれないと」
「あ、あれはダケナカの派遣会社ダソナ関連だろう。あれだけ予算をとりながらなんでこんなポンコツな」
「そのう、住基ネットですとか、年金番号などでもさんざん問題を起こしておりましたし。そのたびに改善は申し入れたんですが」
「や、やはり無理だったか。それでもだな、誰か、これを止められないのか!」
「首相が陽性ですので、我々全員濃厚接触者でして。官邸から出るに出られずでして」
「だからといって、非常事態なんだぞ。外部に連絡をとって、どうにかできんのかー」
「それが、その、連絡はとりましたが、議員の皆様方、首相と同じくどうにかできないかとおっしゃるばかりで」
「ひ、秘書は」
「その、ほとんど例のカルト集団出身者で、辞めさせて引きつぎ中でロクに働けません。そのうえ、ジコウ党が今までの関係を断つなら辞めます自ら辞めたものも少なくないです。ハギュウダン政調会長のところはすでにほとんど人がおらず、政調会長も感染してウンウンうなっておられるそうで」
「わー、記者たちとか疑問に思わんのか―。ネットで直接私に連絡を取ろうとか」
「そのう、今まで政府、与党議員の言葉がどれほど矛盾があり支離滅裂でも垂れ流し。あえて疑問を持って追及するなどという精神は彼ら、記者クラブ所属の記者たちにはないようで」
「INUHKは?4Gだかの公共放送だぞ」
「あそこはさらに公共放送ではなく、喜田挑戦仁明協和国の国営放送とほぼ同じですので首相の会見に批判や疑義など挟まず、そのまま流します、ダカイチ総務大臣が脅してましたし」
「わー、つまり我々ジコウ党がメディアを骨抜きにしたのが裏目に出たのか―。デジタル庁他システム構築など厄介なことは下請けに押し付けたのがー」
「は、はあ。迅速に的確に事態を収拾できる議員がほとんどいません。カルト集団との癒着を思わしく思ってない平議員など少数で。彼らはむしろいったん解党したほうがマシと考えているらしく、早々に辞職を表明し、後継者探しをはじめたとか」
「い、いくらなんでも、早すぎる。そ、それに与党議員ほか関係者がいなくなったら政府が、国が混乱…」
「その、ラインで共産ニッポンやレイワン新選組の野党党首がすでに会談をはじめ暫定政府の骨格を作り始めたとかの連絡が。キジダダガース首相もそれを後押しし、すでに報酬などの返金や具体的な権限移譲を会見で述べていると」
「だ、だから私は言ってない!こ、こうなったら私が直接記者クラブに乗り込んで、訂正を!」
と叫んだ途端!
プッツーン
何かが切れる音がしてキジダダガース首相は床にバタンと倒れた。
「わー首相が悪化した!重症化するかも、大変だー!ウッ、ワ、私も急にめ、めまいが」
崩れ落ちる側近。
官邸の騒ぎとは裏腹に記者クラブの面々は“キジダダガース首相”の最初にして最後の会見をそのまま何の疑問ももたないかのように静かに聞き放映し続けていた。
どこぞの国では9次下請けとか、何でもかんでも面倒なことは下に回し、技術者専門家を軽視しまくっているようですが、わが身にトラブルが降りかかったらお偉方はどうするんでしょうねえ。マスコミも無批判にお偉方の会見垂れ流しのようですが、ツッコミもせずロクな質問してないと後で痛い目に遭うような気がするんですけどねえ。