人がいない酒場
僕は、冒険者ギルドを出た後、よく通っていた酒場に向かっていた。
そこは、迷路みたいな路地裏。通称、迷宮路地裏にあるのと看板がないから、その酒場の存在自体を知らない人が多い。だからこそ、人が少なく静かな店であるため、大勢で飲んだり、食べたりすることが苦手な僕が何かを食べたい時によく立ち寄っていた。
今回その酒場に行く目的は、あるものを送ったため、食事が一食分を無料で食べられるからである。その当時の僕は、その報酬のみに目がくらんでしまい詳細な内容を聞かずに受けてしまったことを後悔している。そして、必ず店の食材全てを食い尽くしてやる、という思いは今でも変わっていない。
僕が過去の出来事を振り返りながらその酒場に向かっていると、誰かが倒れている人影が見えた。それを見た僕は、急いでその人影の近くに寄った。するとそこには、水色の髪の少女が倒れていた。
「あの~、もしも~し。生きてますか~」
少女の顔の上で手を振りながら声をかけるが、全く反応しない。一応、呼吸音は聞こえてくるため、生きてはいることは確認できた。一度は放置することも考えたが、さすがに考え直し、自分が行く予定だった酒場まで運ぶことにした。
そうして、僕は名も知らぬ少女を背負い、酒場に向かって再び歩き始めた。
◇◇◇
しばらくの間歩き続け、途中道に迷ったりもしたが、何とかたどり着いた。
外装は、ドアがついてあること以外周りの壁と変わらなかった。むしろ、ドアがついてあることで怪しさが増している。
この町に帰ってきてから懐かしさを覚えてばかりだが、ここでも懐かしさを覚えてしまった。
僕は、背負っている少女のこともあり、すぐに扉を開けて中に入った。
するとそこには、外装からは想像できないような落ち着いた装飾した綺麗な店内が視界に映り込んだ。内装は、2年前よりもさらに凝っておりそこにも驚いたが、それよりも驚いたところがあった。
それは、6人くらい客だと思わしき人物たちがいたということだ。
どうゆことだ、なぜ人がいる。俺の記憶のかぎりでは常連は俺以外におらず、客は来たとしても数か月に一回。さらには、店主も店の宣伝をしないため、潰れかけたこともあった店に客がいるだと。
そんな目の前のあり得ない光景に呆然としていると、ドヤ顔を決めている爺さんに声をかけられた。
「なんて間抜けな顔をしておるのじゃ、アレフよ」
「いや、目の前にあり得るはずのない光景が広がっていたら、驚くに決まっているでしょう」
「まぁ、彼らはこの路地裏で迷っているところを保護しただけじゃが」
「よかったです。売り上げが伸びずに犯罪とかに手を染めてなくて本当に安心しました」
「貴様は、本当に失礼な奴じゃな!」
僕が心から安堵していると、店主である爺さんが怒りの声を上げているが、こちらは本気で心配していたため安堵感が強く、店主の怒りの言葉もすんなり受け止められた。
ちなみにだが、僕は店主の本名は知らないため、マスターと呼んでいる。
一通り心の中の声を吐き出したのか、店主は疑問を投げかけてくる。
「ちなみにじゃが、その背負っている女の子は誰じゃ?」
そういえば、倒れた女の子を連れてきたんでした。この店に客がいるという衝撃ですっかり忘れていたた。
「すっかり忘れてました。路地裏で倒れてたんですよ。なので、連れてきました」
「説明がとても簡潔じゃな。意味が分からんから、もうちょっと詳しく説明せい」
「いや、詳しくともいわれましても困りますよ。その言葉通りなのですから。」
マスターに怒られるが、詳しく説明しろと言われても本当に言葉通りだったのですから。僕はもう一度ここに来るまでの出来事を振り返ると、確かに説明不足だった点が一つだけあったことを思い出した。
「マスター、ちなみに息はあるので死体処理ではありませんよ」
「そんなことはわかっとるわい!」
また、怒鳴られたが今回は原因がわかんなかった。他に伝えられる情報がなかったため、この情報を伝えたのだが怒られてしまった。
「まったく、普通ならアウトじゃが、この路地裏に限って何が起こるかわからんからのう。とりあえず、こちらのベットで寝かせておくとしよう。アレフ、貴様は席で待っておれ。注文はいつも通りで構わんな?」
「ええ、構いません。ついでに無料の特典を使用するので、そこのところもお願いします」
「わかっておる。」
呆れた顔のマスターはさっきとは打って変わって、落ち着いた声でそう言うと、少女を背負い店の奥へと消えていった。
そんなマスターを見送った後、いつもの席へと向かった。
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