ギルドマスターは、ストレスが溜まる。
僕は、ギルド長室に行くために、ギルドマスターの後ろに付いて行っている。
ギルド長室に向かっている時に、数人のギルド職員とすれ違ったが、挨拶をするどころか、ギルドマスターを一瞥もせずに足早に去っていった。彼らの去り際をよく観察してみると全員がギルドマスターの威圧によって体を震わせ、顔を青ざめていた。
僕は、S級冒険者として伊達に死線を潜り抜けてきてないし、本来の彼を知っているため恐怖の効果自体が軽減されているはずなのだが、それでも少しだけ手が震えていた。相変わらず能力であると、感心していた。
「………。」
そんなことを思っていたら、威圧感が強まり、思考が現実に戻される。どうやら着いたようなので、威圧で呼びかけてくれたらしい。有り難いが、普通に呼びかけてくれればよかったのにと思ったが、扉を開いてあるということは待たせてしまったと思い、僕が人生の中で一番尊敬している人物であるギルドマスター、ルフさんに謝罪した。
「仕事の中、時間を割いていただいてるのに待たせてしまってすみません、ルフさん。」
「気にしてないし、今日の仕事量は少ないから問題ないから、さっさとそこの椅子に座っていろ。それでも、罪悪感があるなら俺の愚痴に付き合え。」
「なら、その愚痴に付き合わせてもらいますよ。顔を見るにとてもストレスを溜めてそうですからね。」
僕が来客用の席に座ると、ルフさんは対面の席に座る。
その際に顔を見たが、かなり疲弊しているようだった。おそらくそれは、ストレスによるものだろう。ルフさんが就いている役職、ギルドマスターの仕事はたくさんあるが、ストレスを溜めた原因の仕事は、恐らくギルド内の抗争の仲裁だろう。
基本的にギルド内では、毎日トラブルが起こるためギルドの職員は、それを仲裁することが多い。ギルド職員は元冒険者が多いため、たいていの争いは止められるが、主にA級以上の間の争いには入れない。そのため、ギルドマスターやギルドの支部長は、それを止めれる実力が必要とされる。
しかし、目の前のルフさんは実力で言えばD級にも劣るほどであるが、彼の能力の威圧感によって周りの勘違いが加速し、結果的にギルドマスターの地位まで上り詰めてしまった。仮に仲裁した時に攻撃が飛んで来たら、ほとんどの確率で彼は死ぬだろう。
それでも、彼がギルドマスターを続けている理由を、酒を飲んだ時にぽつりと、先代のギルドマスターに憧れたのと、恩返しだと言っていた。詳しくは、ルフさんが寝てしまい聞けませんでしたが。
それを理由に、自分の命を懸けることが出来、自分より強者に向かって行けるところが、尊敬することが出来ます。自分には出来なかったことだから。
そして、僕個人としても、尊敬する彼の仕事に対する覚悟と姿勢はまだまだ近くで見習いたいので、ギルドマスターを続けてほしいのだが。
「お願いだから助けてくれ。俺が止めに入ると、一瞬だけ殺気がこっちにむくんだ。その時、毎回怖くて、小便が漏れそうになるんだ。お願いだから、変わってくれよアレフ~。」
「私には、ハナさんが止めれないので無理ですね。そのまま諦めるか、ハナさんを除名するか、別の人に当たってください。ハナさんを止める条件で考えると、後二人しかいませんがあとの二人も問題児ですからね。やっぱり諦めるか、ハナさんを除名するかのどちらかですかね。」
「ハナを除名しようにも、そうしたらギルドの収益が一気に落ちるから除名できないんだよおぉぉ。」
ルフさんは、ストレスが溜まりすぎたのか泣きながら交代をお願いしてくるが、僕ではハナさんを止めることが出来ないため断らせていただく。
ハナさんを除名することも提案に出したが、彼女はほとんどのギルド依頼を完璧に達成し、さらには二つ名を持つほどに有名であるため、貴族からの指名依頼も多いですからね。
そもそもギルドの依頼は、自由依頼とギルド依頼、そして、指名依頼に分かれている。
自由依頼は、依頼書をギルドに提出し、許可が出されれば掲示板に貼りだされる。簡単なものから難しいものまで、いろいろとある。
ギルド依頼は、ギルドから直接出される依頼であり、主に魔石の収集と町周辺の魔物駆除の依頼がよく掲示板に貼りだされている。魔石の取引は個人でもできるが、ギルドを通した方が利益が出るので、個人で取引する人はほとんどいない。
指名依頼は、依頼者が有名な冒険者をギルドを通して依頼することであり、金額がとても高額であるため、貴族たちがどうしてもという場合に依頼される。主にA級以上の冒険者が指名される。
そしてハナさんを除名してしまうと、指名依頼やギルド依頼の達成率が下がって、ギルドの収益が一気に落ちてしまいます。そのため、除名したくてもできないのが今の現状でありますね。
まぁ、ルフさんは市場で除名はしない人でしょうけど。
僕は、依頼の話を置いておいてしばらくの間、ルフさんの愚痴に付き合った。
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