魔法チートに依存する世界に物申してみた
「そうですか…。あなたは此処に残ることに決めたのですね。」
「はい。《大魔法使い》としてこの世界の復興と発展に協力したいんです。それに、彼女たちのこともありますし。」
「ありがとうございます、ご主人様。私達も全力でご主人様をお支えしていきます!」
「………《大魔法使い》として、ですか…………。」
「あの、先生?」
「一つだけ、忠告をさせて下さい。できることなら魔法はもう使わない方が良い。」
「は?」
「先生殿!それはどういうことですか!!神の祝福である魔法を否定するなど、背教者のすることに他なりませんよ!!いくら勇者様方のまとめ役であったお方だとしても…!」
「その神が魔法は悪いものだとおっしゃっているからですよ。」
「なっ!?」
「…私達とあなた方は本来違う言語で話しています。それが滞りなく意思疎通できるのは神の祝福によるもの。それはあなた方が言ったことです。そして、私達にはあなたたちの使う技術のことが《魔法》、と聞こえているのです。《神術》などの言葉ではなく。」
「そ、それが何だって言うんですか!たかが単語じゃないですか。」
「言葉は重要ですよ?そもそも《魔》とは仏教で言う《マーラ》。悟りを妨げるものであり、奪い、殺すものを指す言葉です。神は《魔法》をその名を冠する技術として翻訳したのです。すなわちより高みに至ろうとする際、障害となるものと定義している。」
「っ!だ、だとしたら神がなぜそんなものを人に与えたと?おかしいじゃないですか!!」
「そうですね。本当に神が魔法を与えたと言うのであれば、ですが。少なくとも私達魔法の無い世界から来たものから見ればこの世界は酷く歪です。安易に呪文一つで火や水、自然現象を行使できる。できてしまう。」
「ですが反面、安易に利用できてしまうから魔法に頼り、技術や科学が発展しない。魔法はどこまで行っても個の力であり技術です。技術としてはあまりに汎用性が無さすぎます。《継承する》ことが出来ないからです。」
「人と言う種の本質的な強みはその適応力と群れであること、だと考えています。一人ひとりは弱く、儚くともその短い生の中で発見し、確率した技術や知見を共有し、それを礎に次の世代が発展させる。その積み重ねで私達は極微の世界から星に手を届かせるまでになっています。勿論弊害は多々ありますのでそれが最善とは言えないでしょうが。」
「少なくとも私から見れば魔法とは、人と言う種が《一定以上の力を持たないように》何者かが与えたとしか見えないのですよ。それが神であれ、それこそ悪魔であれ、ね。」
「もしも魔法が神以外から与えられたのだとすれば、人と言う種の強みを潰し、勇者召喚などと言う外道の技術に依存しなければならないほどに弱体化させ、魔物達と延々潰しあいをさせるためのものなのでは?」
「げ、外道の技術とは聞き捨てなりま」
「異世界から戦闘奴隷を拉致して殺し合いをさせる為の技術が外道の技以外の何だと?何人死んだと思っている!!元の世界であれば事故や災害でもなければまず失われることのないはずの命が!!」
「っ!?」
「失礼。済んだことをどうこう言っても仕方ありませんね。ただ、私達はあなた方を許していない。そこははき違えないでください。」
「話を戻しましょう。そして神が与えたのだとすれば…善意で解釈すれば緊急避難。悪意で解釈するならばペット扱い…と言った所では?」
「先生、それはどう言う意味ですか?」
「科学の発達は先ほど言ったように積み重ねの結晶。つまりは必然的に膨大な時間とマンパワーが必要不可欠です。魔物と言う脅威の存在するこの世界でそんな悠長なことを言っていたら人が絶滅しかねない。だから手っ取り早い自衛手段として授けられた、そんな所ではないでしょうか。」
「であるならば、魔王を倒し魔物の脅威が去った今、本来の道に立ち戻るべき、そう言ったのです。そうですね、君にわかりやすく言えば、育児に手を避けない親から子供に渡されたクレジットカードみたいなもの。自分で生活費を稼げない子供の頃ならそこから親の金を引き出して使うことで生きていくのは当然です。命綱ですからね。」
「ですが、十分に成長してなおその子がクレジットカードに頼るとしたらどうでしょう。それは命綱ではなく成長と自立を妨げる障害以外の何物でもありません。故に神の善意から与えられたのであれば今この時が自立の時でしょう。」
「逆に神の悪意が介在しているのであれば、親…いいえ、飼い主の金に依存させ、飼殺すための餌でしょうね。なにせ我々の世界では数学の発展は神を殺したそうですから。」
「さて、今の話を踏まえてどうするかはこの世界の自由です。ただ、少なくとも神は魔法を人に対する障害となるものとして定義している、そこだけは忘れないように。
もしかしたら、魔法に依存しきった先があの魔物や魔王かもしれませんね。
では時間です。せいぜいお元気で。」