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昼夜混濁[番外編]  作者: 泡沫
「昼と夜の交わり」番外編
1/1

昼に生きる夜の蝶

「昼と夜の交わり」の「昼に生きる夜の蝶」という章の書き下ろしを纏めたものです



『左側の想い』


(side 左京)


 「左京、貴様は今日の夜この場所で待機しておれ。気付かれないようにな。」

 

 自分が弟と二人で仕事場へいつものように行くと、一番に梢さんが命じられ、地図が書かれた紙を渡された。

 正直、意味がわからない指令だったが、そういった指令は意外と多い。


 「承知。って事だから、悪い、今日は最後まで右京と仕事ができない。」


 「気にしなくていいよ、そっちの方が優先度高いでしょ。」


 双子の弟である右京は笑顔だ。いい弟をもった。もはや天使と言っても過言ではない。


 自分と右京はいつも通り、仕事をする。

 毎度のことだが捕虜が煩い。自分は捕虜の生命反応と情報だけを見ている。

 死んだって情も湧かない。家畜が死のうが、虫が死のうが、機械が壊れようが、何も感じないのと同じ。

 

 「右京、ソレ、ちょっと危ない。」


 「うん。そうだね。」


 右京は手を緩めた。


 数時間仕事をした。


 「そろそろ時間だ。行ってくる。」

 「行ってらっしゃい、姉さん。」


 以前は少しでも右京と離れるのが嫌だった。

 でも今ならば大丈夫。右京と自分だけの世界ではないから。

 "信じる"ことを覚えたから。

 離れたってきっと気持ちは一つ。優しい右京はきっと、自分を待っていてくれる。

 自分と右京は生まれた時から二人きり。二人で一人だから。

 互いに互いを理解してる。

 きっといつでも自分たちは一緒だ。


 『仕組まれた登場』


三人の標的を捕らえた後、尋問の必要性を感じた梢は渓に左京を呼ぶように命じた。


梢は渓に命じたのちに、橘に命じた内容と方針を詳しく説明した。


渓はマフィアの基地ではなく、予め決めていた場所へと向かった。たった徒歩数分、渓の速度ならば、より短いだろう。左京はその場所で息を潜めて待機していた、数時間前から。


「待たせた。時間だ。」


渓よびかけられた左京は即座に礼をして、それに従った。


最高幹部側近の渓は幹部(見習い)である左京よりも幾らか、いや遥かに格上だった。


「自分は何をすればいいのですか?」


左京はただ、呼び出されただけ。何も聞いてはいないのだ。左京は自身の疑問を素直に渓に投げかけた。


「今はまだ、教えられない。教える必要もない。君は事前に呼び出される予定ではなかった。いいね?」


その言葉から左京は意図を捉えた。


「はい。自分は急に呼び出されました。」


「よし。」


渓は満足して、そう言った。


急に呼び出された左京は廃工場に入ってすぐこう言った。



 「わっ。警護社もいるじゃないですか。何事です?」


 Ⅲ

 『右側の被った猫』


  (side 右京)


 俺は初めてこの仕事をした時、この上ない快楽を知った。


 「自分と右京は大丈夫。ここで生きていこう。」

 「自分もそれが一番だと思う。」


 自分と左京がマフィアに誘われて加入した時から、自分たちの能力の特性に合った仕事を任された。

 尋問だ。拷問といっても良いかもしれない。


 マフィアの敵から情報を抜き取る仕事だ。

 この仕事には自分たちの能力がとても役に立った。


 そして、生贄(捕虜)たちが情報を吐く直前や直後の顔、絶望した顔を見た時、苦しそうな顔を見た時、俺は満たされたように感じた。口角が自然と上がって頬がカッと熱くなった。この仕事こそが俺の天職だとすぐに気づくことができた。


 「右京、何してるの?なんか面白いことあった?」

 

 初めてこの快楽を知ったとき、左京がそう尋ねてきて分かった。左京はこれに喜びを覚えてはいないんだ。俺だけが知っている喜びに優越感を感じて、この胸の高鳴りをそっと隠した。


 「いや、何でもないよ、姉さん。」


 つくり込んだ笑みで隠した。


 「そっか。この仕事できそう?右京は優しいから、苦手かと思ったんだけど。」


 俺は優しい?優しいだろうか?優しくなんかない。


 「自分は大丈夫。姉さんはいいの?」


 左京は考えながらゆっくり答える。


 「自分は捕虜を人間だと思っていないの。右京とかここに連れてきてくれた人たち以外は人間だと思えないの。生き物とも思えないの。ただの物体?そう思っている自分は狂ってると思う。でも、右京は違うでしょ?」


 あぁ、違うよ。俺は、相手をモノとは思わない。でも、きっと左京よりも狂っている。

 そうか、俺は優しい弟なんだな。本当の俺に気づいていないのか。

 なら、ずっと、俺は........


 「大丈夫。姉さんは優しいよ。狂ってなんかない。姉さんが楽しく生きられるならそれがいい。此処ならできると思う。自分たちは此処で生きよう。」


 左京は自分を抱きしめた。俺に気付かずに自分を抱きしめた。左京の熱が伝わってくる。自分を大事にしたいのが伝わってくる。

 これを俺も自分も生涯忘れることはないだろう。

 左京の前で自分を演じ続けることを俺は誓った。


 今日は左京が梢さんに呼び出されて早くに上がった。

 稀にあるこういった日は日頃のストレスを発散させる。自分を演じるのを辞めて俺になる。

 俺は就業時間が過ぎても仕事場に篭った。

 左京には気付かれないようにこの時間を堪能する。


 左京には楽しく生きてほしい幸せになってほしい。その為ならば、なんだってする。

 自分を演じ続ける。暗い俺を隠し通す。

 いつだって笑っていてほしいから。


 『数日後の報道番組』


 こんにちは。昼のニュースの時間です。

 先日、銃乱射事件の容疑者が逮捕されました。

 容疑者は無職ですが、資産を多く所持しており、その形跡から、銃を別の者から買い取ったと思われます。

 調べに対して、容疑を認めてはいるものの、銃の入手ルートについては黙秘を続けています。


 元捜査一課の****さん、どう思われますか。


 そうですね。銃の乱射は認めているという場合、入手ルートについて黙秘を続ける理由は限られています。例えば、自分の信用に関わるとかですね。そういった組織において、密告はとても重い罪というか裏切りなんです。殺人の動機にすらなり得ます。ですが、今回、既に逮捕されているので自分が殺害される恐れというのはないと思うので、ちょっとわからないですね。そこまでして組織への忠義を守りたいのでしょうか。


 なるほど。そう考えると、不思議ですね。銃の入手ルートについては捜査を続けるそうです。

 銃の入手ルートについては謎が深まるばかりです。


 『取り調べ』


 「どうでしたか?」


 容疑者への調べが終わった同僚に今日の感触を尋ねた。


 「駄目です。覚えていないとしか証言しないんです。」


 ガックリと項垂れて答えた。早々に銃の乱射について自供したものの、銃の入手ルートが分からない状態が続き、捜査一課は頭を抱えていた。表向き、銃の入手ルートについて黙秘していると報道したものの、実際のところは少し状況が異なっていた。容疑者は「分からない」「思い出せない」と証言するのだ。証言内容が空なところから黙秘は間違ってはいないが、奇妙である。犯罪の方法を忘れるような犯人はあり得ないのだから。


 「やはりか。覚えていないはずがないのだが、必死に思い出しているようにも見えるんだよな。」


 熟練の捜査官もお手上げ状態である。しかし、彼の経験から引っかかる部分があるようだ。


 「それだけ演技の上手い容疑者ということか...?」


 嘘の演技をする容疑者がいないわけではない。しかし、そうすると、さらに不可解な行動がある。


「それなら、何故すぐに実行について自供したんですかね。」


 実際、それだけの演技ができるのならば、しらを切ってもよかったのではないか。


 「正直、俺には本当に忘れているようにしか見えなかった。」


 頭の中で何ども容疑者の動きを再現してもどうしても嘘をついているようには見えなかった。


 「私もです。まるで、そこだけ記憶にポッカリ穴が空いているかのような。」


 その言葉が全てを表しているようだった。

 捜査官たちは繰り返し頭を整理して、答えを探すも見つからず。

 延々と続く討論に答えはない。



 一人の男がその様子を遠くから見て静かに去ったことに気づいたものはいなかった。



VI

『梟』


 「今回の仕事はこの情報にある銃を購入した者たちから銃を奪うこと。暗殺、記憶改ざんの必要はないが、何より速く、行ってほしい。情報源はマフィアであることを忘れないこと。では頼んだ。園咲、時間の調整頼むね。今回俺は出ないからそこまで穴は開かないだろうが、アイツらが監視の仕事をできなくなる。」

 龍崎が静かに命じた。

 園崎は静かに頭を下げ、「承知しました。」と言った。

 他の六人は了承の意を込めた礼をすると闇に紛れた。

 「リミットは......夜明けまでがベスト、無理だろうに。だからベストと言ったんだろうが。まぁ、九時までには終わって欲しいかな。」

 龍崎は一人呟いた。



ここに登場する全ての名称、設定などは実在するものと一切関係はありません。

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