参上! サラリーマン文学美少女仮面の忍者 タダノカスミ
えっと……
通勤途上の進路先に変な人がいた。
全身黒づくめ。
本当に人だろうか、あれぇ、遠近法がおかしい。身の丈3メートルぐらいないか?
あっ、振り向いた。うわっ、目ェでか。おまけにピカピカ光ってるよ。
あー、なんか宇宙人特集とかで見たことある奴だ。なんだっけ、フラットウッズ・モンスターとかいうやつだっけ。
うわ、こっちぃ来た。ピコンピコン効果音付きで向かってくるよ!
僕は逃げ出した。今日が初出勤なのに遅刻確定だ。だけど、命には代えられない。ここは全力で逃げる!
ドサッ
あっ、転んじゃった……
間近に迫ったフラットウッズ・モンスターが奇声を上げて腕を振り上げた。鋭い鉤爪が朝日をギラリと反射させる。
「た、助けてぇ~」
悲鳴を上げた。
「待ちなさい!」
凛とした声が響き渡った。
近くの雑居ビルの屋上に女の子がいた。
腰まで伸びる金色のツインテールに赤いアイマスク。青ベースのクロップトップから可愛らしくおへそを誇示しつつ、超ミニスカートで締め括っていた。
怪しい。
眼前のフラットウッズさんを軽々と越えてくる怪しさだった。
「そこ! 視線もっと上、上にあげなさい」
角度的にスカートの下が気になった僕の心を見透かすように叱責が飛ぶ。慌てて女の子の顔の方へと目を向ける。
「宇宙凶悪連合! あなた達の野望はこのサラリーマン文学美少女仮面の忍者タダノカスミが打ち砕くわ!」
サラリーマンなのに忍者って?
文学少女ってどの辺が文学少女なのか、とか。自分で美少女って言うか、いや仮面してたら美少女かどうか分かんないじゃん、とか突っ込み感が半端ない。
ビビビー
が、ウッズさんは動じる事なく目から光線を発した。
「とう!」
女の子はジャンプして光線をよける。
「出でよ、魔法書 アカシックブック!」
女の子の声に呼応して一抱えもある分厚い辞書が出現する。
おお、これが文学少女のゆえんか!
あの魔法書で強力な魔法を使……
「でぇやぁ!」
殴ったぁーー!
魔法書でウッズさんを殴り飛ばしたよ!
「かわいいわ正義!」
女の子はそう言うと、尻餅をついている僕を残して去っていった。
「で、それが遅刻の理由ですか?」
ダメ元であったことをそのまま話した。
堅物そうな受付の女の人はじっと僕を睨むと書類を一枚くれた。
「遅刻証明書です」
その時、あるものに僕の視線は釘付けになる。証明書ではない。受付の人の名札だ。只野霞とあった。
「本人……のわけないよね」
それが間違いだと分かるのは少し先の話だった。
2020/12/27 初稿