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俺の覚悟

「待ってくれよぉ、マジかよぉぉおおお」



 電気を消し、カーテンを閉め、ドアに鍵をかけて――――そんでもって、発狂する。

 俺の心の中では、インド人が回れ右をしており、どうにも収拾がつきそうにない。

 

 親父が再婚して幸せになるのは、素直に喜ばしい。

 それに、母親になろうとしている人物も、俺が昔から知っている人だから、あまりわだかまりもなく、良好な関係が築けるだろう。


 だが、だがっ



「マジで、なんでぇぇぇえ」



 翠、お前だけはだめだ。

 …………まぁ、好きなやつと一つ屋根の下というのは嬉しい。 非常に喜ばしい。

 だが、好きなやつが”妹”になってしまうということが問題なのだ。


 もっと、俺があいつのことを早く好きになっていれば問題なかったのかもしれない。

 しかし、もう後の祭り…………焦ったって、悔やんだってしょうがない。

 しょうがない――――。

 

 ―――――諦めよう。


「親父、おば――――母さんたちは?」


「ッ!? 橘花、許してくれるのか…………?」


「許すも何も…………。 俺は、元から結婚に賛成だよ、ちょっと気持ちを整理する時間が欲しかっただけ」


「そ、そうか…………ありがとう」


「気にしないでよ」



 小心者の親父だ。 まさにこの親でこの子ありだ。

 だからこそ、親父が俺に再婚することを言い忘れたのではなく、わざと言わないように先延ばしにしていた理由は想像がつく。


 拒絶されるのが嫌だったのだろう。

 俺の場合も――――そうかもしれない。


 俺が、あいつに告白せずに…………好きという気持ちを隠し続けたのも。

 …………この気持ちは諦めた。 そうだ、諦めたんだ。



「母さん、翠。 ありがとう、気持ちの整理がついた」


「橘花君…………ありがとう」


「そ、そう…………整理がついちゃったんだ。 …………よろしく、橘花」


「あぁ、よろしく」



 おばさん―――いや、母さんと翠に改めて親父ともどもよろしくと頭を下げる。

 おばさんは、若干だが目に涙をためていた。

 大人の余裕を最初は出していたが、やはり心のどこかでは不安だったのかもしれない。


 翠は―――、翠の顔はよく見れなかった。 見れる気持ではなかった…………。


 晩飯のことはよく覚えていない。

 気づいたら、風呂から出ていて、リビングには親父と母さんの二人だけが残っていて―――俺は、自室で寝ころんでいた。



「俺、何やってんだろ…………これじゃ、不貞腐れたガキじゃんか」



 この日の夜は、吐き気を催すような自己嫌悪を抱いて眠った。







「おはよ、お兄ちゃん」


「あぁ、おは――――よォッ!?」



 電撃が直撃したような……そんな感覚が、体の芯をびりびりと麻痺させる。

 脳が動かない、いったい今俺に何が起こったのか、理解が追い付かない。

 


「ちょ、え? いま、なんて?」


「……別に、だって僕たちもう兄妹じゃないか。 幼馴染でも、仲のいい女子でもないんだろ? 僕は」


「え、いや、まぁ…………確かに家族だからな」


「ッ…………そ、だから、形からでもって」


「な、なるほど?」



 会話の流れがうまくつかめない。

 それどころか、俺は最低なことに、翠のパジャマ姿を拝めていることにこの上なく感謝してる。


 かわいい。

 もうそれだけだった。

 ショートカットにしている髪型もかわいいし、縞々模様のパジャマを着ているのもかわいい。


 翠は、何もなかったかのように、スンとした様子で洗面所を出ていく。

 


 ―――しまった。


 俺が昨日の朝から夕方まで悩みに悩んで決意した覚悟は欠点だらけだったらしい。


 

 どうやら、俺は、今までよりもいっそう翠のことをこの上なく恋しているのかもしれない。

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