クズ賢者、魔王の娘をなでなでして、よしよしして、いい子いい子する
おそらくこれもまたヒューゲル将軍の仕業だろう。
先日のパーティで一戦交えた際、カインとの力の差は歴然だった。
だから自ら向かってくるようなことはせず、こんな下らない罠を仕掛け、カインに一矢報いようとしたのだ。
もしもカインに被害が出なくても、持て余していたフィオだけはおそらく始末できる。
どう転んでも向こうには得しかない。そんな腹づもりだったのだろう。
あまりのおぞましさに吐き気がする。
だがしかし……そこでふと、フィオが自分を見ていることに気付いた。
「……なんだ?」
「あ、あの、えっと……カインさん、こわい顔、してたから……」
フィオはもじもじと言う。
どうやら顔に出てしまっていたらしい。慌てて取りつくろおうとするのだが――。
「ああ、大丈夫だ、別に何でも――」
「だから……はい」
「へ」
フィオは袋からクッキーを取り出して、カインの手に一枚乗せた。妙に真剣な顔で、フィオは言う。
「お腹、すいたのかと思って……カインさんも、クッキー……食べよ?」
「フィオ、おまえ……!」
カインは感動に打ち震えた。
これまでろくに食べさせてもらえなかったであろうフィオにとって、クッキーなどご馳走だろう。
それを何の躊躇もなく分け与えるなんて、よほど他人を思いやる心がなければできないことだ。
(は? 天使か?)
もともと子供好きではあったが、そこでもうフィオへの好感が急上昇した。
心の中で将軍並びに兵士たちをボコボコのギタギタのメタメタにしながらも、カインはにこにこと笑って、もらったばかりのクッキーを差し出す。
「俺様は腹いっぱいなんだ。だからこいつはフィオが食え。ほら、あーん」
「あ、あーん」
フィオはおずおずと、そのクッキーに食い付いた。じっくり咀嚼するその姿を、カインはにこやかに見守る。
「よしよし、うまいか?」
「……うん」
「よーしよしよし! フィオはいい子だなあ!」
「きゃっ」
わしゃわしゃと頭を撫で回し、それでもまだ満足出来なくて抱き上げてくるくる回った。
フィオは目を白黒させつつも、おずおずと問う。
「……フィオ、いい子?」
「ああ、俺様が見てきた中で一番いい子だ。こんないい子が魔王の娘のわけがねえ。兵士どもも見る目がねえぜ」
「いい子……はじめて言われた……えへへ」
「笑ったー!」
初めて見るぎこちない笑顔で、もう完全にノックアウトだった。
カインはそのままフィオを『高い高い』していたのだが……ふと、気付く。
「……あれ? フィオ、おまえ……俺様が怖くないのか?」
今朝方、新聞配達の少女に逃げられたのは記憶に新しいし、これまでの人生で子供に懐かれた記憶もない。
故郷での一件で顔に大怪我を負ってからは、目が合っただけの子供に泣かれたこともある。
だがしかし、フィオはこてんと小首をかしげてみせる。
「カインさん……? こわくないよ?」
「ま、マジか……!?」
初めて子供に怖がられなかった。
感動に打ち震えるカインに、フィオはぎこちない笑顔を浮かべ、たどたどしく続ける。
「だって……カインさんはフィオのこと、たたいたり、怒ったりしないもん。だから、こわくないよ」
「……そうかよ」
カインはその頭をわしゃわしゃと、時間をかけて丁寧に、丁寧に撫でた。
フィオを虐げた者すべてを洗い出し、地獄へ送る決意を固めながら。
続きは明日更新します。
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