魔王の娘だとしても
しかしそれはひとまず置いておく。大きなため息をこぼしてから、再びフィオの顔をのぞきこんだ。
「いいか、フィオ。大事な話がある。よーく聞いてくれ」
「う、うん……なあに?」
「実はな……俺様の故郷も、魔王のせいで無くなっちまったんだ」
「っ……!」
十年前の、うだるように熱い夏の夜。
カインの生まれ育った村は、多くの魔物を引き連れた魔王によって、あっという間に蹂躙された。
友人たちは生きたまま魔物に食われ、養父は火に焼かれて……カインもまた瀕死の重傷を負った。
あの夜に見た、紅蓮の炎の中たたずむ黒い人影を、カインは生涯忘れることはないだろう。
村はすべて焼け落ちて、あとには何も残らなかった。
カインに残されたのは自分の命と、その夜に負った顔の傷……それだけだった。
だからカインは必死になって魔法の腕を磨いた。
すべてはあの悪しき存在を滅ぼすために。
そんなことを語って聞かせれば、フィオの顔は真っ青になってしまった。
震えながら、うつむき加減でか細い声を絞り出す。
「ご、ごめんなさい……」
「……なんでフィオが謝るんだよ」
「えっ……」
「フィオが俺様の故郷をめちゃくちゃにしたわけじゃねえだろ?」
その頭をそっと撫でながら、カインはニヤリと笑う。
「おまえは何も悪くない。いいか、それだけは間違えるな。たとえ本当に魔王の血を引いていようと、おまえが罪を背負う必要なんてどこにもないんだ」
「で、でも、あの兵隊さんたちは……」
「そりゃ、あいつらの性根が腐ってるだけだ。次またそんなことを言う奴らが出てきたら、俺様がかわりにぶん殴ってやる」
「……ほんとに?」
フィオは目を大きく見開いて……やがてそこから大粒の涙がこぼれ落ちた。
しゃくり上げながら、彼女は縋るような目でカインを見つめる。
「ほんとに、フィオは……フィオは、わるくないの……? 魔王の、むすめなのに……!?」
「……当たり前だろ」
カインは泣きじゃくるフィオのことをそっと抱きしめた。
その体は見た目以上に細く、着せたローブの上からでも浮き出た骨の感触が伝わった。
力を入れてしまえばすぐに折れてしまうだろう。カインは注意しながらも、少女にささやきかける。
「おまえは何も悪くない。誰が何と言おうと、それだけは忘れるな」
「うん、うん……!」
フィオはカインにしがみつきながら静かに泣いた。
その頭を撫でてやりながら……カインは思う。
(そもそもこいつが魔王の娘だっつーのも、本当かどうか疑わしいよなあ……)
先ほど見せた魔力は、間違いなく魔王と同じものだった。
だがしかし……それだけで血縁者だと断ずるには根拠に乏しい。
偶然魔力の質が似てしまったことだって、十分に考えられるだろう。
そこはおいおい調べていくとして。
フィオが少し落ち着いたのを見計らって体を離し、カインはにかっと笑う。
「よしよし、泣き止んだな。ちょうどクッキーがあるんだよ。ミルクとよく合うし、こっちも食うか?」
「う、うん」
フィオはぎこちなくうなずいて、カインの差し出した袋を手に、クッキーをちまちまとかじる。
こちらもお気に召したらしく、瞳孔がまた猫のように開いた。新聞配達の少女には渡せなかったが、怪我の功名である。
それを微笑ましく見守りながら……カインはそっと視線をずらす。
テーブルの隅。そこにはフィオにつけられていた首輪の残骸が転がっていた。
(……《サーチ》)
フィオに聞こえないように、小声で魔法を使う。
その瞬間、カインの目には首輪の材質、施された魔法の種類、制作者のおおよそのプロフィールなどなど、様々な情報が映し出された。
そして電流が流れる仕掛けのほかに……読み取れるものがあった。
(ふん、やっぱりな。トラップ付きだったか)
平たく言えば爆弾だ。
首輪にある一定威力以上の攻撃魔法が当たった瞬間、その魔力を利用して半径百メートルほどを吹き飛ばすほどの爆発が起きる。
フィオはもちろんのこと、その攻撃を仕掛けた者も無事では済まないだろう。
そして、その標的はおそらくカインで――。
(魔王の娘とクズ賢者……マジでこりゃ、両方潰し合わせる気満々じゃねえか)
カインは強い怒りに打ち震えた。
本日はあともう一話更新します。
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