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校長との話し合い

 学校は町外れに位置しており、学舎をふたつと校庭を備えた本格的なものだった。

 カインとフィオは訪れるなり奥の部屋に通されて、先ほどのような門前払いとも取れる言葉を受け取ってしまった。


 ふたりに向き合うのは初老の男性だった。白いものが混じった髪を撫でつけて、身なりもいい。聞けばこの学校の校長だという。


 部屋の本棚には教育関係の本がずらっと並び、笑顔の子供らと撮った写真が何枚も飾られている。かなり教育熱心な人物なのだと窺い知れる。

 そんな人物がフィオを突っぱねるとは、カインにはどうしても納得できなかった。


「うちのフィオが入学できねえって……そりゃどうしてなんだ?」

「理由は三つございます」

「みっつもぉ!?」


 フィオが真っ青な顔で叫ぶ。

 校長は真顔でぴんと人差し指を立ててみせた。


「まず第一に。フィオさんはその若さで、もう魔法が使えると聞きます。その力で他の子を傷付けてしまう可能性はゼロではありません」

「ええっ!? フィオ、そんな乱暴なことしないよ!?」

「魔法の威力を誤って友達を傷付けてしまう子供の例は何件もあるんですよ。フィオさんに悪意がなくても事故が起こるかもしれません」

「うっ……ないことはない、かもしれないけど……」


 フィオは顔をさっと青くして黙り込む。

 今は魔法のコントロールができるようになったが、カインの家に来たころは暴走させてしまうことがよくあった。


 その経験があるからこそ、校長に強く反論できないのだろう。


「第二に。ここまで素質の高い子ならば、もっと大きな魔法学校への入学が適切でしょう。そちらの方が才能を伸ばすことができます」

「たしかにそうかもしれねえが……」


 カインもまた言い淀むしかない。

 実際のところ、ここから少し離れた大きな街に国内有数の魔法学校が存在していた。

 全国各地から素質のある生徒らを集めるエリート校だ。

 フィオならそこでも、他の生徒らとなんら遜色ない活躍ができることだろう。


(それもまたいい経験になるんだろうけどなあ……)


 魔法の才覚を伸ばすだけなら、それでもいいだろう。

 だが、フィオのためを思うのならそれだけでは不十分だと思えた。


「校長さんのおっしゃることはもっともだ。だけどよ……俺様もフィオも、この町が好きなんだ」


 カインは背筋を正し、校長の目をじっと見つめて言う。


「だからまずはこの町で、フィオにたくさんの友達を作らせてやりたいんだ。俺様にできることがあれば、何だってやってみせるから……どうかこの通り! 頼む!」

「フィオもお願いする! お願いします、せんせー!」


 カインががばっと深く頭を下げてみせれば、フィオもそれを真似した。

 校長はそんなふたりをじっと見つめていた。やがて彼は小さく息をついて口を開く。


「第三の理由になりますが……」


 そこで校長が言葉を切ったので、カインたちはそっと顔を上げた。

 すると、彼はこれまでの硬い面持ちから一転してにっこりと笑ってみせた。


「フィオさんはまだ体験入学が済んでおりません」

「へ?」


 親子はそろって目を瞬かせる。


 体験入学?


 話の飲み込めないカインたちをひとまず置いて、校長はニコニコと続けた。


「我が校では入学前のお子さんを対象に、体験入学を行っていただく決まりとなっているんです。保護者の方と一緒に学校生活を体験いただくんです」


 そう言って懐から出してくるのは『体験入学のしおり』と書かれた冊子だった。


 受け取って開いてみれば、授業参観や給食の試食、他の生徒たちと一緒に行うレクリエーションなどの予定がびっしりと書かれていた。

 丸一日かけて学校生活の隅々までを体験できるらしい。


「中には集団生活が未経験な子もいますからね。まずは体験してもらって、それからその子に合った教育方法を模索するのがうちの方針なんです」

「なるほど……誠実な学校なんだなあ」


 あっさりと言う校長に、カインは嘆息するしかない。


 さらりと言ってのけるものの、ひとりひとりに合った教育を……となると、教育者側からするとかなりの負担だろう。それでもその苦労を感じさせない彼ののほほんとした居住まいに、彼がいかに真剣に子供たちに向き合っているのがよく分かった。


「私はどんな子供にも、等しく教育を受ける権利があると考えております。だからフィオさんにも、ぜひとも我が校で学んでいただきたい。ただ……」


 校長はそこで言葉を切り、ほんのわずかに眉をひそめる。

 真剣な声で続けることには――。


「うちの学校には色々な子がいます。父兄の中には、フィオさんを危険視する方もいらっしゃることでしょう。彼らを納得させるのは並大抵のことではありませんよ。それでもうちの学校に通いたいですか?」

「そうだなあ……」


 カインはすこし口をつぐむ。


 先ほど校長が挙げた懸念は一般論というわけだ。

 フィオが学校に通うことで、ここの保護者たちが不安を覚えるのは当然だろう。

 ならば実績を作ればいいだけだ。


「うちのフィオが何の危険もないと分かれば……その父兄さんたちは受け入れてくれるだろうか?」

「ええ。みなさんしっかりした方ばかりですからね」

「なら、それを体験入学で示せばいいってことだな」

「そういうことになりますね」


 カインの言葉に、校長はにこやかにうなずいた。

 ならばやるべきことは決まりだ。カインは膝を叩いて意気込みを口にする。


「だったらその体験入学をやろう。フィオはどうだ?」

「もちろんやるよ! フィオもこーちょーせんせーのところで勉強したいもん!」

「はは、そうですか。そう言っていただけるとうれしいですね」


 校長は笑みを深めて手帳を開く。


「では、体験入学ができそうなのは三日後ですが……よろしいですか?」

「はーい!」

「よろしく頼む、先生!」


 フィオは元気よく手を挙げて、カインはまた深々と頭を下げた。

お待たせしました!連載再開いたします。

しばらくは二日おきくらいに更新予定です。

そして第一巻が6/10に発売予定!表紙などもうすぐ公開されるはずなのでお待ちください!

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― 新着の感想 ―
[一言] さあ フィオは入学できるのか?! 前途多難になりそうだw
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