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クズ賢者、刃向かう敵を廃人にする

 そんな騒動が起こった、次の日のこと。

 カインの泊まる客間にヨシノが訪れてきた。


「ほんっとーに……申し訳ない!」

「い、いやいや!? 頭を上げてくれって!」


 彼女は部屋に来るや否や、畳に額を付ける勢いで土下座した。

 そのせいでカインは大いにあわてて、彼女の前で正座して宥めることになった。やがてヨシノも落ち着いて、疲れたようにため息をこぼした。


「まさかあのお客さんが、カインどのの敵やったなんて……一時でも暗殺依頼を受けてしもて申し訳ないわあ」

「奇妙な偶然もあったもんだよなあ……」


 まさかここの主が、そんな裏家業に手を染めていて。

 そして、偶然にもヒューゲルが依頼にやってきて、カインと遭遇するなんて。


(ひょっとしたらヨシノと戦うことになってたかもしれないんだよなあ……)


 ヒューゲルをボコっていたときの鬼気とした迫力を思い返し、多少背筋が凍るカインだった。


「でも、あいつは仮にも依頼主だったんだろ。ボコってもよかったのか?」

「うちは本当の悪人以外に手は出しまへん」


 ヨシノはきっぱりと断言する。

 そうしてにっこり微笑んで、カインの手をそっと握るのだ。


「カインどのが善良なお人なのは、話せば分かったからね。あんなふうに優しくうちの話を聞いてくれるお人が……悪人なわけないやないの」

「ヨシノ……ありがとう」


 それにカインはじーんと胸を打たれるのだ。

 相当な悪評があちこちに広まったものの……こうして、新たに信じてくれる人が現れた。それだけで報われるような気がしたのだ。


 隣でお菓子をもりもりと平らげていたフィオも、感慨深げにため息をこぼす。


「あのおじちゃん、悪い人だったんだねー……フィオもびっくりだよ」

「知らずにボコっていたなんてフィオちゃんらしいですわ」

「まあ、下手人を捕らえたものの……」


 相づちを打つクーデリア。

 一方、リリア姫はちらりと部屋の外に広がる庭へと目を移した。


 風光明媚な庭には、大きな檻がでんっと置かれている。あまりにも風景とそぐわないその中に入れられているのは、もちろん変わり果てた姿のヒューゲルだ。


「わ、私が悪かった……私が、悪かった……私が悪うございました……」


 髪はすっかり白く染まり、げっそりとこけた顔に生気はない。虚ろな目はどこを見ているかも分からず、か細い声でずっと謝罪を繰り返す。

 悪辣な軍人の姿はどこへやら、完全に廃人状態だった。


 そんな惨状を見やって、ヨシノは頬に手を当ててこともなげに言う。


「あのお方をぶち込んだのは、うちが得意とする結界空間でねえ。中にはうようよ魔物や亡者がおるんよ。しかも現実世界と時間の流れが違うから……中で百年分くらい、みっちり反省できたんとちゃうかなあ」

「反省ってレベルかなあ、あれ……」


 カインはぎこちなく笑うしかなかった。戦わなくて心底よかった。

 リリア姫とクーデリアも、顔を見合わせてため息をこぼす。


「カインに楯突いた将軍がああなっては、またカインについて妙な噂が出るのは避けられぬじゃろうなあ……」

「悪事をぺらぺらと自白してくれて、わたくしとしては楽なんですけどねえ」

「ま、因果応報ってやつかねえ」


 カインは肩をすくめて、ヒューゲルのことを見やる。

 先日、フィオが自分の元に送られてきたとき――あのとき、フィオは檻の中で小さくなって怯えていた。奇しくもそれと似たような末路を遂げたというわけだ。


 カインはフィオに向き直り、頭をぽんっと撫でる。


「よかったな、フィオ。これでもう悪い奴はいなくなったぞ」

「う、うん。でも……」


 フィオは視線をさまよわせてから、上目遣いでカインの顔をうかがう。


「悪い人は倒したのに、パパの悪い噂はなくならないんだね」

「おまえが心配しなくてもいいっての」


 娘の頭をがしがしと撫で、カインは笑う。

 誤解されたままなのは悲しい。それでも――。


「ヨシノみたいに、話せば分かってくれる人もいる。それが分かっただけでも上出来だ。これからも地道に、俺様が本当は悪人じゃないってことを知ってもらえばいいだけだ」

「そっか! それってフィオもお手伝いできる? パパが世界一のパパだって、みんなに分かってもらうの!」

「もちろん。俺様もフィオが世界一いい子だって、世界中に知ってもらわないとな」


 親子はほのぼのと笑い合う。

 しかし――不意にカインが怖い顔をしてフィオの目を覗き込む。


「ただな、山に入るなってリリアたちに言われてたんだろ? それなのに昨日おまえ……山に入ったんだよな? あのヒューゲルを追いかけて」

「うぐっ……! あ、あれはおじちゃんとの鬼ごっこで……」

「言い訳するな! おまえは目を離すとすぐこれだ! 罰として今日はおやつ抜き!」

「あああああ! ヨシノおねーちゃんにもらったお菓子いいいい!?」


 お菓子の山を没収すると、フィオがこの世の終わりのような悲鳴を上げる。

 そんな親子のことを、ヨシノたちはほのぼのと見つめていた。

続きは明日更新。明日でラストとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪い事したらちゃんと叱らないとねw でそのあと甘やかす っとw
[一言] おやつ没収!! 正に、飴と鞭…。
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