魔王の娘
魔王。
それは今から十年ほど前に、突如としてこの大陸に現れた災厄の名だ。
種族や年齢、正しい名前は一切不明。
ある日突然現れたその存在は、莫大な魔力を持ってしてありとあらゆる破壊活動を行ない、世界の約一割を焦土に変えた。
その破壊に種族の隔たりはなく、どんなに堅牢な要塞も、山奥深くの隠れ里であろうと、すべて等しく破壊され、多くの命が失われた。
ゆえにあらゆる種族が手を取り合い、多くの数々の群勢がこれに挑み、そして無残にも敗れ続けた。
もはや世界は滅びの道を進むしかないのだと、みなが諦めかけた頃――ひとりの男が魔王に挑み、三日三晩の激戦の末にこれを破った。
その男こそが、ここにいるカインだった。
(あいつの……魔王の、娘だと……!?)
カインは言葉を失い、幼い少女を凝視する。
しかし、彼女と魔王を繋げる何かはまるで見当たらなかった。
それもそのはず。魔王は常に黒いローブで全身を覆っており、対峙したカインでさえその素顔を見たことはなかったのだ。
激戦の末に倒したあと、魔王の体は黒い塵と化してしまったため、死体を検めることもできなかった。
「我ら軍部は、貴様の倒した魔王の遺灰を分析した……! その結果、国内で似たような魔力の波動が検知され……捜索した結果、娘と思しき存在を発見したのだ!」
「それが、あのガキだって言いたいのか……」
「その通りだ! いい加減に……薄汚い手を離せ!」
呆然とするカインの手を、隊長格は乱暴に振り解いた。
そうしてひどく忌々しげに少女を睨む。
その頃には目も慣れたのか、少女は小さく縮こまりながらも、不安そうな目で兵士たちとカインを見つめていた。
「我らはその娘を密かに確保した。だがしかし反抗的な態度ゆえ、軍部でも持て余していたのだ」
「反抗……? こんなガキに何ができるっつーんだよ」
「見ればわかる。やれ」
そう言った途端、兵士の一人が剣を抜き、迷わず少女へ振りかざし――。
「なっ、待て!!」
「ひっ……!?」
バヂィッ!
カインが制止の声を上げるのとほぼ同時、少女の体からまばゆい稲光が走った。
それが兵士の剣を弾き飛ばし、地面に転がす。
隊長格は肩をすくめてみせる。
「この通り。魔王の娘の名に恥じぬ魔力を有している。おかげで収容期間中、何十名もの負傷者を生み出した」
「だから俺様に預けるっつーのかよ……」
そこにきて、カインはようやく話が飲み込めた。
魔王を退けたカインなら、魔王の娘も対処できる。単純な話だが……おそらく面子を潰されたヒューゲル将軍の差し金だろう。
厄介者同士、潰し合わせようとする意図があからさまに垣間見える。
(しかし、まさか魔王の野郎……いや、声も聞いてねえから女かもしれねえが……娘がいたとはな)
先ほど少女が垣間見せた、研ぎ澄まされた刃のような高純度の魔力。
三日三晩もの間、幾度となくぶつかり合った相手の魔力をカインが忘れるはずはない。
少女の魔力は、間違いなく魔王と同質のものだった。
(だが、どうしてそんなに怯えるんだ……? あれだけの力がありゃ、こんな奴ら余裕だろうに)
脅威を退けるだけの力が十分にある。
それなのに少女はますます青い顔をして、目に涙をいっぱいに溜めて震えていた。
まるでこれから、もっと恐ろしいことが待っているかのように……。
「だが何、案ずることはない。この石に魔力を流し込んでやれば――」
「うあっ……!」
隊長格が懐から、宝石のついたペンダントを取り出す。
それを見て、固く口を閉ざしていたはずの少女が悲痛な声を上げた。
少女は馬車の上から転がり落ちるようにして降りてきて――額を地面に擦り付け、一心不乱に謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! いまのは、わ、わざとじゃないの……! 自分じゃ、とめられないの……! だ、だから、もう、もう、いたいのは、もう……やめ……やめて、ください……!」
耳を覆いたくなるほどの懇願。
そのたどたどしい言葉に……カインは直感する。
「テメェ……まさか、あの首輪……!」
「ああ、電撃が発生する仕組みだ。軍部の魔法使いたちが総力を上げて開発した特別製でな。殺さない範囲で、威力は自在に調整できる」
男は天気でも告げるような軽い調子で、そのおぞましい言葉を口にした。
続きはまた一時間後くらいに更新します。
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