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クズ賢者、決意する

「でもまあ、本当の両親捜しは諦めねえぞ。いつか一緒に会いに行こうな」

「ほんとのパパとママか……どんな人だろ。優しい人だったらいいなあ」

「もちろん優しい人に決まってるだろ。なんせおまえの実の両親なんだからな」

「うん! ありがと、パパ」


 フィオは満面の笑顔を返してくれた。

 そんな愛娘に笑いかけながら……カインの顔はふと曇る。


(ひょっとしたら本当の親は……俺が殺した、魔王なのかもしれねえけど)




 フィオが魔王の娘だという話を、カインは当初まったく信じていなかった。

 だがしかし……今ではその可能性を少しだけ考え始めていた。

 

 そのきっかけは単純なことだった。

 先日、ようやくクーデリアと連絡がついたのだ。


 彼女は魔王の娘の存在、そして軍部の動向について、カイン同様一切知らなかったらしい。ヒューゲル将軍の一件は置いておいて、まずはそちらの調査にかかってもらった。


 そうして出てきた情報は、あまり良い物とは言えなかった。

 田舎町の娼館に捨てられていたということだけで、両親につながる手がかりはなし。


 おまけにフィオがいたという軍の施設では奇怪な現象が起きていたという。

 魔法の鏡の向こうで、クーデリアは沈痛な面持ちで語った。


『フィオちゃんは軍用施設に収容された当初、一切魔法が使えなかったようですね』

『ああ、それは本人から聞いた。ある日魔力に目覚めたらしいな』

『ええ。そうしてそれ以降……彼女のいる軍事施設の周辺を、数多くの種類の魔物がうろつくようになったらしいんです』

『魔物が……?』


 魔物というのは特別な生物だ。

 魔力が豊富に存在するダンジョンや、特定の地域でしか棲息しない。

 縄張り争いに負けるなりして、魔狼のような群れが移動することはある。

 しかし何の繋がりもない魔物たちが、魔物使いの指示もなく一箇所に集うなんて聞いたことがない。


 いや、ひとつだけ例外があった。

 クーデリアは青ざめた顔で、続けた。


『そしてこの世でたった一人だけ、自在に魔物を従えることの出来る存在がいました。カイン様も、よくご存じのはずです』

『魔王……か』


 魔王には、なぜかどんな種類の魔物でも従った。

 ただそこにいるだけで魔物が集結し、指を向けるだけでその方角にあるものすべてを破壊し尽くした。

 名のある魔物使いが卵から孵し育て上げた魔物でさえ、あっさり魔王に寝返ってしまうほどだった。


 先日この町の付近に出没していた魔狼も、どうやらひとつ山を越えた向こうからやって来ていたらしい。

 そしてその時期は、フィオがカインの元に来た頃とピタリと一致する。


『フィオが魔物を呼び寄せていた、って言うのか……?』

『ええ。おそらく無意識に。彼女がカイン様の元に送られてから、施設の周辺からは魔物が消えたみたいですし。そして今はカイン様のご周辺、魔物はいないんですよね?』

『それがいったい……っ、フィオが力の使い方を覚えたからか!?』


 あの事件から、フィオは魔法をコントロールできるようになっていた。驚いたときに電撃を飛ばすこともなく、ごくごく普通に生活している。

 そして、先日の魔狼を最後に、この町の付近から魔物の目撃例はぴたりと無くなった。

 偶然だと笑い飛ばすには、すこし繋がりすぎている。

 

『彼女が魔王の娘だと断定することはできません。ですが……否定するだけの根拠もない。それが現在申し上げることのできる全てですわ』

『……』


 クーデリアが絞り出した結論に、カインは何も反論できなかった。




(フィオがもしも本当に魔王の娘なら……俺様は、こいつの親を殺したことになる)

 

 世界を守るためだとか、故郷の仇だとか。どんな言い訳をいくら並べようと、カインが魔王を討った、その事実は覆せない。

 カインはフィオを抱き上げて、にっこりと笑う。


「どんなことがあっても、俺様がおまえを守る。おまえは俺様の娘だ、フィオ」

「うん!」

 

 フィオを必ず幸せにする。

 カインはそう、固く心に誓ったのだった。

 

 そんな話をしているうちに、トーカがアイスを持って戻ってくる。コーンに乗った苺アイスは見るも鮮やかなピンク色で、フィオの顔がさらに輝いた。


「お待たせしましたー。はいどうぞ、フィオちゃん」

「わあ、アイスだ! ありがと、トーカお姉ちゃん!」

「ははは、ゆっくり食えよー」

 

 木箱に座らせてやると、フィオは上機嫌でアイスを食べ始める。

 そんな微笑ましい光景を見守っていたカインだが――。

 

「うん?」

 

 ふと、店の玄関に目を向ける。かすかな物音を耳が拾ったのだ。

 しばし考えてから……人差し指を立てて、トーカに頼む。

 

「なあ、アイスもう一つもらえるか?」

「あら、カインさんも召し上がりますか? どうぞどうぞ。こちらのメニュー表からお選びください」

「ありがとよ。そんじゃ……」

「パパ、どこ行くの?」


 カインは店の玄関までそっと歩いて行って――ゆっくりと扉を開いた。

 

「……よう」

「ひゃっ」

 

 そこにいたのは、大きなカバンを背負った女の子だ。毎朝カインの家に新聞などを届けてくれて、先日はフィオが魔狼から救い出した、あの少女である。

 あれからずっと朝早くに配達に来ていたのか、顔を合わせる機会がなく……今日になってようやく会うことができた。


(つーか、さっきの広場でもいたもんな……なんか話しかけたいみたいだったし)

 

 隅っこの方でもじもじ困った様子で立ち尽くす姿を、カインは視界の隅に捉えていた。

 ここまで追いかけてきたはいいものの、どうしようか困っていたらしい。

 だからカインはごほんと咳払いして、少女にアイスのメニューをかざしてみせた。


「もしよかったら……アイスでも食うか? うちのフィオと一緒にさ」

「…………うん」

 

 少女は泣くことも逃げ出すこともなく、固い面持ちでこくんとうなずいてみせた。

続きはまた明日。

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― 新着の感想 ―
[一言] 贖罪とかそういうネガティブな感情で子育てはしない方が良いと思うのですよ。意外に子供はそういう感情に敏感ですからね。ソースは「いつも顔色ばかり伺いやがって!」と言われた子供時代の私
[一言] 大変楽しく読ませて頂いています。とても面白いです! これからも、頑張って下さい!
[良い点] 見たこともない親よりカインがいればいいじゃん と思った フィオは会いたいのかな [気になる点] 魔狼から助けた少女って 新聞配達員の娘だったのか 御礼に来たのかな? [一言] まだ決まった…
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