本当の親子に
住民達が色々と差し入れしてくれるばかりでなく、トーカがこんな風にとても的確に商品をそろえてくれるので、カインの家はずいぶんと充実していた。
フィオの服もたくさん増えたし、絵本も本棚の一角が埋まるほどに集まった。
その分、懐具合はかなりお寒いことになっていたが……フィオの笑顔には変えられない。
フィオはカインの足下までやってきて、にこにこと笑う。
「ありがと、パパ! でもねえ、フィオ、一番好きなのはパパの作ってくれたクッキーなの。また作ってくれる?」
「ああ。帰ったら焼いてやるよ」
「わーい! パパ大好き!」
頭を撫でてやれば、フィオはにこにこと笑う。
町で親子のふりをする間だけ……という話だったはずなのに、フィオはあれからずっとカインのことを『パパ』と呼び続けていた。もちろん家の中でも同じだ。
(やっぱり……一度ちゃんと話をしておくべきだよな)
カインはそう決意してフィオの前にしゃがみこむ。
顔をのぞき込みながら、口を開いた。
「なあ、フィオ。ちょっと大事な話があるんだ。聞いてくれるか?」
「なあに、パパ」
「ちょっと前まで俺様はな……おまえを、よその家にやるつもりだったんだ」
「……えっ」
フィオの顔から笑みが消える。
かわりに現れるのは戸惑いの表情だ。
「本当の両親を捜すか……それが無理でも、おまえを引き取ってくれる家庭を見つけようと思ってた。都を追放された俺様なんかと一緒にいちゃ、悪影響でしかねえからな」
「や、やだ……! フィオ、パパと一緒がいい!」
カインの胸にしがみついて、フィオは悲痛な声を上げる。
「みんな優しくしてくれるけど……フィオの一番はパパだもん! どこにも行っちゃやだ……! フィオを置いていかないで……!」
「そうか……」
カインはその小さな体をそっと抱きしめた。
一ヶ月ほど前に出会ったときに比べれば、ずいぶん体重も増えたし、何よりずっと自然に思ったことを口に出来るようになっていた。
今はもう、カインが何も言わなくても、差し出したミルクをうれしそうに飲んでくれる。
その変化が何よりも嬉しかった。
そして、カインの胸にもまた変化が生まれていた。
「……俺様も同じ気持ちなんだ」
「えっ……」
「俺様もな、フィオとずっと一緒にいたいんだよ」
くしゃくしゃになったフィオの顔をのぞき込み、カインはニヤリと笑う。
いつか手放すつもりでいたのに、いつの間にかフィオはカインにとってかけがえのない存在になっていた。
朝目が覚めて、フィオが隣で寝ているのを見て安心する。
自分のことをパパと呼ぶ声をずっと聞いていたい。
たくさんの幸せを与えてやりたい。
これが紛れもない父としての愛情だということに、カインはとっくに気付いていた。
「だから、もしもフィオが良かったら……俺様が本当のパパになってもいいか?」
「うん……! パパはフィオのパパだよ!」
「ありがとよ、フィオ」
泣きながら笑うフィオの頭を、カインは心を込めて撫でた。
こうして些細なことから始まった偽りの親子関係は、本物になったのだった。
続きは明日更新します。
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