クズ賢者、魔法を説く
フィオは目を丸くしてカインを見る。そのままもう一度町へと目をやって……くしゃっと顔を歪めてみせた。
「怖い人……いない?」
「もしいたら、全部俺様がぶっ飛ばす」
カインはからっと笑う。
するとフィオは何度も町とカインとを見比べて、いくぶん固い面持ちでこくんとうなずいた。
「じゃあ、行く。行ってみたい」
「よし、よく言った。それじゃあ今日は一緒にお出かけだな」
カインはその頭をわしゃわしゃ撫でて、明るく言う。
不安は隠しきれないようだが、それでも勇気を出したことを褒めてやりたかった。
(いつまでもここに置いとくわけにはいかねえもんな……なるべく俺様以外の人間にも慣れさせねえと)
ベストは本当の両親を見つけ出して、引き合わせること。
それが無理なら、せめて善良な里親を探してやる必要がある。
カインは子供好きだし、フィオのことは大切に思う。
だがしかし、たとえ濡れ衣とはいえ、国中に『クズ賢者』として知られるような男のもとで育てられるのは、フィオのためにもならないだろう。
いつか来る別れのために、今はフィオにしてやれることを一つ一つ片付けていきたかった。
「あっ、でも……」
そんなことを考えていると、フィオがふと気付いたように眉を寄せる。
「フィオ、人のいるところに行っても大丈夫かな……? また魔法を使っちゃうかも……」
「あー。びっくりした時とかに、出たり出なかったりするんだよな?」
「うん」
フィオはこくんとうなずく。
カインが面倒を見るようになってからも、フィオはちょくちょく魔法を使ってしまっていた。
グラスが落ちて割れる音や、夜中に聞こえてきた鳥の声……そうしたものに驚くと、ついつい電撃が出てしまうらしい。毎回そうなるわけでもないし、自分の力では止められないという。
フィオは暗い顔をして言う。
「前はこんなこともなかったの。兵隊さんに連れられて、あそこに行って、ひどいこと色々されて……気付いたら、使えるようになってたの」
「目覚めちまった、ってことだろうなあ……」
おそらく、もともと高い潜在能力を秘めていたのだろう。それが命の危機に瀕して覚醒してしまったのだ。そういう話は稀に聞く。
だが、カインはどんっと胸を叩く。
「心配いらねえよ、フィオ。あれくらいなら俺様が受け止めてやるって。見ただろ? 毎回毎回一瞬でバリア張ってしのぐところをよ」
「う、うん。すごいよね」
フィオはこくこくとうなずく。
びっくりして魔法を使う度、カインはそれをバリアを張ったり、真逆の属性の魔法をぶつけて打ち消したり、様々な方法で無力化していた。
「だろ? いいか、フィオ。よーく覚えとけよ。そらっ」
「わっ」
カインが空いた片手をかざせば、ぽんっと小さな音を立ててそこに小さな炎が宿る。
手品レベルの初歩的な魔法だ。
だがフィオは目をキラキラさせてそれに見入った。
それにカインは笑いかける。
「魔法ってのは怖いものじゃないんだ。上手く使えば最高の武器になる」
「それじゃあフィオも、カインさんみたいにちゃんと魔法が使えるようになる?」
「当たり前だろ。そもそもおまえみたいな小さな子供が呪文の詠唱もなしに魔法を使うなんて、よっぽどの力がないと無理な話なんだぜ」
魔法を使うには一般的に、知識と呪文、そして反復練習が不可欠だ。
それなのにフィオはまともな教育を受けることもなく、魔法を使っている。間違いなく、天賦の才を備えた逸材だった。
「だから今日は町に行って、まずは人前で魔法を我慢する練習だ。できるか?」
「う、うん。フィオがんばる!」
「よしよし、偉いぞフィオ! ご褒美に高い高いしてやる! そら!」
「きゃー!」
高く掲げてくるくる回れば、フィオはきゃっきゃとはしゃいで笑う。
笑顔も増えたし、何より自然に笑えるようにもなってきた。
そのことがカインにはとても喜ばしく……いつか来るであろう別れの時を思い、少しだけ胸が痛んだ。
続きはまた本日の夕方あたりに更新します。
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