クズ賢者、魔王の娘に提案する
「クッキーはまた焼いてやるとして……昨日のオムライスはどうだった? 気に入ってくれたか?」
「お、オムライスって、あの黄色いの……?」
フィオはハッと目をみはり、キラキラとした顔で言う。
「とろとろ、ふわふわで、おいしかった!」
「おお、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。じゃああれか、ハンバーグなんかは好きか?」
「はんば……ぐ?」
「……知らねえかー」
きょとんと首をかしげるフィオに、カインは渋い顔をするしかない。子供に人気の定番メニューだろうに。
気を取り直して、身振り手振りを交えてハンバーグの説明をしてみせる。
「こう、ひき肉をボールみたいに丸めて焼く料理なんだけどよ。うまいぞー」
「お、お肉をボールに……!? そんなことしてもいいの? 怒られない……?」
「バカ言え、怒るようなやつは俺様がみーんなまとめてぶっ飛ばす。どうだ、食ってみねえか?」
「た、食べる!」
「わはは、いいぜ。ご要望にお応えしようじゃねえか」
カインはカラカラと笑ってフィオの頭を撫で回すのだが……ふと気付いて、その手を止める。
「あー、でもそうなると……買い出しが必要だな」
「?」
不本意ながら、カインは世間を騒がす『クズ賢者』だ。
だから人目を避けるためこんな山奥に引っ込んで、日用品や食料は全部クーデリアに送ってもらっていた。
それも彼女の息がかかった行商人が特別に届けてくれるため、近隣の村や町に出かけたことは一度もない。
これまではそれで不自由なかったが、フィオがいるとなると話は変わってくる。
フィオの顔をじーっと見ながら、カインは顎を撫でる。
「いつまでも俺様の服を着せとくわけにはいかねえし、日用品も全然足りねえし……あと絵本とか玩具も必要だよな。フィオ、おまえ文字は読み書きできるか?」
「文字……ちょっとだけなら、読めるよ」
「よし、それじゃ勉強用のノートとペンも必要だな。子供用の教科書もあるに越したことねえし……ちなみに今何歳だっけ?」
「えっとね、十歳」
「そうかそうか。そんな年頃だったらお洒落もしたいよなあ。髪留めなんかも買うとして……」
そんなふうにして指折り確認していくと、必要なものは膨大な数となった。
クーデリアから折り返しの連絡が来てから、改めてフィオ用の物資を送ってもらうのもいいが……それでは遅い。
(いや、これはチャンスかもしれねえな……)
フィオの世界を広げるのに、うってつけの機会だ。
カインは悪戯っぽく笑ってみせる。
「よし、今日は買い出しだ。町に行くとするか」
「町……?」
「ああ、ほら。こうすりゃ見えるだろ。よっ、と」
「わわっ」
フィオを抱えたまま浮遊魔法を使い、屋敷の屋根へと上る。
すると山の麓に広がる町並みがよく見渡せた。その向こうには大海原が広がっており、朝日を受けて水面がキラキラと輝く。
「わあ……おっきいね」
「だよな。この辺だと一番でけー町らしいぜ」
このあたり一帯は、都からはるか西に離れた田舎である。
麓に見える町――たしか名前はライラックと言っただろうか――を除けば、小さな村々がぽつぽつと街道沿いに並んでいるくらいだ。
あの町は海に面していて港があるため、例外的にそこそこ栄えているようだった。
おまけにこの辺りは魔物の被害も少ないらしく、のんびり暮らすには最適だった。
「なあフィオ、俺様と一緒に……あの町に行ってみねえか?」
「えっ」
本日はご愛顧に感謝して、あと二回更新します。
たくさん応援いただいた結果、現在日刊ハイファンタジージャンルの十位にランクインしております。
これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
まだまだ上を目指して頑張ります。
応援していただけるのでしたら、ブクマや下の評価をポチッと押してご支援ください。目指せ一桁ランク!