クズ賢者、子供に懐かれて嬉しい
しかしカインはかぶりを振って、その殺意をひとまず保留する。
「まあ、それはおいおいだな……まずはクーデリアに連絡付けねえと」
どうやらクーデリアはヒューゲル将軍の件で、遠方まで調べ物に出ているらしい。
数日前に魔法の鏡で話しかけたが、顔馴染みのメイドが顔を出すだけだった。
とりあえず火急の用があると伝言を頼んでおいたが……彼女は全国に窓口を持つ、冒険者ギルドの統括長だ。元来多忙を極めるため、いつ返事が来るかもわからない。
ひとまず彼女にフィオのことを調べてもらって、今後の方針を決めたいところだ。
できれば本当の両親を見つけ出して、引き合わせてやりたいが――。
「カインさん……?」
「っ」
そこで名前を呼ばれ、ハッと顔を上げる。
玄関扉に目をやれば、フィオがもたれかかるようにして立っていた。
寝巻きかわりのカインのシャツを着て、素足のままだ。カインは慌ててそちらに駆け寄る。
「なんだよ、起きたのかフィオ。まだ寝ててもいいんだぞ、くたびれてるだろ」
「ううん……大丈夫」
フィオはカインの足にしがみついて、ふわふわとした声で言う。
「起きたらカインさんがいなかったから……探したの……」
「あー……ごめんなあ。飯の用意とかしてたんだよ。シフォンケーキも焼いたら、あとで食わせてやるな」
「……うん」
カインが頭を撫でてやると、フィオは心地よさそうに目を細めた。
ほんの少し前に出会ったばかりではあるものの、もうすっかり懐いてくれたらしい。
(俺様が子供に懐かれるなんて……!)
夢にも思わなかったシチュエーションに、思わず相好がゆるみそうになる。しかしカインはすぐにスッと冷静になるのだ。
(でもなあ……こいつが俺様に懐いたのは、他に頼れる相手がいないからだ。それはあんまりよろしくねえよな……)
きっと今のフィオには世界の全てが恐ろしいものに見えているのだろう。
そんな中で唯一手を差し伸べてくれたカインに懐くのは、当然と言えば当然だ。
(こいつの世界を広げてやらねえとな……)
この世界には、フィオに優しくしてくれる人がカイン以外にもきっとまだまだ大勢いる。
フィオにはそのことをちゃんと理解してもらいたかった。
そんな願いを抱きながら、カインはフィオを抱き上げる。
眠そうに目を擦る彼女の顔を覗き込み、ニカっと笑った。
「そうだ、フィオ。ケーキの他に食べたいものはあるか? 何でも作ってやるぞ」
「なんでも……?」
「ああ。これでも料理が得意なんでな。菓子もお手のもんよ」
カインはぐっと力こぶを作って言ってみせる。
家庭料理はもちろんのこと、凝ったお菓子も得意だ。人には意外と言われ驚かれることも多い特技だが――。
(外に食いに行くと、決まって食い逃げに間違えられたり、乱闘に巻き込まれたりしたからな……家で食う方がはるかに楽っつーか……うん)
自炊スキルがやたらと上達した理由もやはり、誤解されやすい性分にあった。
しかしまさかこの悲しい特技が役立つ日が来るとは思わなかった。
最初の日に食べたクッキーがよほどお気に召したのか、フィオは毎日のように作ることをねだってきたのだ。
顔を輝かせてオーブンの前で焼けるのを待つフィオも、ほくほくと大事そうに食べるフィオも、最後の一枚を悲しそうな顔で食べるフィオも、何もかもが可愛くて、カインは無事にノックアウトされていた。
続きは明日更新します。明日もたぶん二回更新。
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