第96話 騎士団長
「ユーリ君だったかな? 先生にアシム君は騎士団長に呼ばれているから遅れることを伝えてもらえるかな?」
「わかりました」
「あっ! ユーリお前も遅刻しただろ! 裏切る気か!」
アシムの非難する声にユーリは反応することなく去っていく。
「くっそ! ユーリ覚えてろよ!」
アシムは裏切り者に鉄槌を下すことを誓った。
「はいはい大人しくしようか」
「く、苦しい!」
「おっと失礼」
襟首を捕まれ持ち上げられていたアシムは不服を申し立て、解放される。
「それで、何か用ですか? 騎士団長様!」
少し不機嫌なアシムが騎士団長に何故自分を呼び止めたのか理由を問いただす。
「そうだな。リーゼロッテから君のことを聞いてね、話してみたいと思っていたんだ」
「そうですか、それで何か話したいことはあります?」
アシムが不機嫌な態度を隠す気がない口調で言葉を返す。
「そんなに怒らないでよ。実際遅刻したことでしょ?」
「うっ」
返す言葉もない。
「俺に怒られたと言えば先生も何か言ったりはしないさ」
「それはどうも」
騎士団長の優男感が気に食わないが、アシムにも都合がいいので強く出づらくなった。
「ああ、聞きたい事があるというのは本当だよ」
「何ですか?」
「君は貴族位を貰ったわけだけど、何かやりたいことでもあるのかな?」
騎士団長様がアシムの将来を気にするのに違和感を覚える。
「やりたいこと?」
「ああ、君は独立できるわけだけども、自分の領地をもちたいとか、王城で働きたいとか、騎士団に入りたいとか」
「まだわかりません」
アシムは素直に答える。
「そうか、リーゼロッテがべた褒めする人物だから何かあるのかなと思ったんだけど」
言葉とは裏腹に、アシムを品定めしようと視線を向けてくる。
「貴族位を貰ったからと言って独立する気はありませんでした」
「気はなかった?」
「はい、そのままサルバトーレ家として生きていこうと思っていました」
「確かに、君が独立をせずに父から家督を譲り受ければサルバトーレ家を継げるね」
受け継ぐ時は、今の貴族位を返還することになる。。
「しかし、事情が事情だったのでそうもいかなくなりまして」
王から特別に貰った貴族位を返還するのはやらない方がいいのは当然のことで、さらに王家との縁を持ってしまった場合にはそんな失礼なことはできない。
やむにやまれぬ、一族存続のためにという理由がなければ許されないのだ。
まあ王はこれを許すことで寛大な処置をしたという評価を得るのだが。
「貴族は大変だね」
「え? 騎士団長様は貴族ではないんですか?」
「おいおい、貴族だけが騎士団に所属できるわけじゃないぞ?」
「それはそうですが」
騎士団は実力主義のようだ。
トップに立つ人間は当然偉い立場なので、貴族を据える方が楽だ。
だがこの騎士団長様は貴族ではないということは、実力だけでその地位を手に入れたことになる。
「そんなことよりもアシム君」
「なんでしょうか?」
「騎士団に入らないかい?」
騎士団長様は、初等部に入りたての子供をスカウトしに来たようだ。





