第95話 入学初日
「オラ! 起きろ!」
アシムはユーリに叩き起こされていた。
いつもは早起きをして早朝の鍛錬なのだが、昨日は珍しく夜更かしをしてしまっていた。
「今日は鍛錬休みなのになんで寝坊してんだよ!」
「やべ!」
部屋に設置されている時計を確認したアシムは飛び起きた。
「入学式だぞ! 急げよ!」
ユーリは着替えを手伝うことなく出ていく。
アシムは着替えを手伝われることを激しく嫌うため、他の使用人も手伝っていない。
「寮だからと油断してしまったか!」
急いで着替え、支度を済ませたアシムとユーリは走りだす。
一応遅刻ではないが、つく頃には手遅れだろう。
「むっふっむふむふ!」
「なんて言ってるかわからねえよ!」
朝ごはんのパンを咀嚼しながらしゃべった言葉は届かなかった。
しかし、アシムのスピードが上がることによりユーリは理解した。
「くっ!」
ユーリはアシムにくらいつくのに必死だった。
これはただの登校だ。
しかし、鬼気迫るような二人の走りは世界の終わりに駆けつける救世主であるかのようだった。
寮から学園は近いため、すぐに校舎が見えた。
そのまま敷地内に入り、入学式が行われる講堂へと向かう。
入口まで何事もなくたどり着いたが、式が始まっているのか扉は閉められていた。
「ユーリどうする?」
「どうするも何も入るしかないだろ?」
「そうだな。入口は複数あるが、鍵の開いている扉はここだけだろう」
「何を考えてるんだ?」
「入る時にバレなければいけると思わないか?」
「思わない! 行くぞ!」
「あっ! 待て!」
アシムの無謀な策略はユーリの賢明な判断により防がれた。
中に入ると式は始まったばかりのようで、司会の進行がアナウンスされていた。
式の最中ということもあり、教師に怒られることもなく早く座るように促された。
学園長の挨拶や、リーゼロッテの上司に当たる騎士団長の祝辞などでが行われた。
騎士団長は超がつくほどの爽やかイケメンで、女生徒たちのため息が揃ったときは何か仕組まれているのかと疑ったほどだ。
「俺は将来騎士団に入るぜ!」
式も終わり、各クラスへ戻る時に各々仲のいい人とおしゃべりをしている。
そんな中急に後ろから悲鳴みたいな声が聞こえた。
「きゃあ!」
アシムはその悲鳴に反応して振り返ろうとしたが、何者かに首元を捕まれ、それが叶うことはなかった。
「えっ!」
アシムは全く反応できなかったことに驚いた。
「入学初日に遅刻とはいけないな」
「騎士団長!」
アシムに全く反応させずに首元を掴んだ人物は、先ほど壇上で女生徒を虜にしていた騎士団長だった。





