第90話 婿入りの話
現在コーデイル公爵家の晩餐会を無事終え、父であるアダンの書斎に呼ばれていた。
アルバイン侯爵は友好的ではなかったが、表立って嫌うようなことはしなかった。
公爵家の呼んだ貴族に難癖つけると印象が悪くなるので大人しかったのだろう。
今回の集まりはどうやら派閥の強化が目的だと思われた。
要は新参者の貴族に唾をつけておいたということだ。
「父上入ります」
扉をノックし、アダンから返事があったので入る。
「そこへ座りなさい」
アダンに促され対面のソファへ座る。
「説明……してくださいますね?」
「ああ。そうだな別に隠すことでもないし、話すにはいい機会だな」
アダンはいい機会だと言って話し始めた。
「まず、お前が准男爵になるということは、独立を許されたということだ。つまりは新しい貴族家の誕生だな」
「新しい貴族……」
今まで何も疑問に思っていなかったが、確かに男爵という家の中に准男爵を作る意味が国にはない。
「さらに言えば、国王がわざわざ独立させるという意味はわかるな?」
「王家への婿入りですか?」
「基本はそうだが、宰相や将軍、近衛への道もある」
この国には騎士団と軍、近衛、衛兵といった武力を行使する組織がいくつかある。
騎士団は対魔物。
軍は対戦争。
近衛は王族の護衛。
衛兵は街の治安維持。
などなど、役割がある。
いざというときは軍に吸収される形で一つの組織になることもあるが、指揮はその組織の長が取ることが一般的である。
「僕と歳の近い王女との婚約ということになるのでしょうか?」
将来的に王族と結婚ということになるならばできるだけ歳が近い方がいい。
時には孫じゃないかというぐらいの歳の差婚があったりする。
「そうなる可能性が高いが、それはお前がこれから貴族としてしっかり結果を残したらの話だ」
「精進します」
「まあ心配しないでもチャンスは国王が与えてくれるさ」
国としては目をかけた貴族となるのでチャンスは与えてくれるようだ。
「わかりました」
「嫌じゃないのか?」
「王族との婚約ですか?」
「いや、顔も見たことのない相手との結婚だ」
「それはあちらも同じ立場でしょうから。それに会う前に嫌いになりようがないので」
理想を言えば恋愛をしてお互いを好きになってからの結婚だろうが、別に好きな人もいない今は気にはならない。
強いて言うならば、王族の婿になったあとの方が心配だった。
欲をいうならば美人であればいいなと思う程度である。
「そうか。それまで嫉妬をしてくる貴族もいるだろうが、上手く付き合えよ?」
「わかりました。もう一ついいですか?」
「なんだ?」
「サルバトーレ家はどうなるのでしょうか?」
貴族は代々男が継いできている。
男が生まれなかった家は秘密裏に養子を取ることもあるそうだ。





