第89話 リード・アルバイン
「これはこれはアルバイン侯爵殿。調子はいかがですかな?」
バレンタイン侯爵は知り合いのようで、気軽な感じで声をかけている。
「ボチボチですな!」
顔に絶好調と書いていそうなニヤケ顔で返事を返す。
「それは何よりですな」
「ははは! それよりもバレンタイン殿は准男爵殿と仲が非常によろしいようで」
含みのある言い方だ。
「そうですな。紹介しましょう! この度新しく准男爵になられたアシム・サルバトーレ殿だ」
「アシム・サルバトーレ准男爵です。以後お見知りおきを」
貴族に対しての最大敬意を払ったポーズで挨拶をする。
「リード・アルバインだ」
一応挨拶を返したが、友好的ではない。
「アルバイン殿はアシム殿の話をご存知で?」
「もちろんだとも! 国王から直々に叙勲をされるとは羨ましい限りですな!」
「そうですな! 直近では3年程前にダライアス殿が貰ったぐらいですな」
「ダライアス殿は敵国と隣接している上に、魔物の駆除も積極的に行っておられますからな」
辺境伯のお仕事は大変そうだ。
「聞けばアシム殿は独立するとか? サルバトーレ家はいかがなさるのか?」
アシムは内心びっくりした。
独立するなど一度も公言していないし、する気もなかったからだ。
「どういうことですか?」
「アシム殿はすでに准男爵となられた。今はまだ若いからサルバトーレ姓を名乗っておられるが、将来サルバトーレ男爵家から独立することを国王が望まれたから貴族位を叙勲されたのではないか?」
アルバイン侯爵に言われ初めてアシムは気づいた。
「国王様が望む?」
「左様。アシム殿を貴族位に据えることで若くして国に仕えることができるのですぞ?」
「え? サルバトーレ家のままではダメなのですか?」
「ダメ、とは言えないが……」
バレンタイン侯爵が言いよどむ。
「ハッキリ申し上げた方が良いのではないかなバレンタイン殿?」
アシムが理解していない様子見てアルバイン侯爵が説明をするように提案する。
「しかし」
「アシム殿は貴族位を頂いたばかり、我々が教えることも先達の貴族の役割では?」
バレンタイン侯爵がちらりとアダンの方を見る。
「いや、これは親であるアダン殿の仕事であるな」
「左様ですか」
この場で言いたかったのか、アルバイン侯爵は残念そうにする。
「何か悪い事なのですか?」
「悪い事ではないのだが」
「では何故?」
「それもアダン殿から教えてもらうといい。それでは私が話してくるかな」
アルバイン侯爵はそう言うとさっさとアダンの元へ向かっていった。
「家の問題に部外者が首を突っ込むべきではないと思うのだがな」
バレンタイン侯爵が、アシムに言ったかわからない言葉を呟いた。





