第88話 飛び級
「僕の姉と同じ歳なんですね」
「ええ、クラスが違うのでほとんど会ったことはないのですが」
飛び級といっても特別授業を受けているようで、普段は同じ歳の子たちと学んでいるようだ。
「飛び級をすると何が変わるんですか?」
アシムの想像した飛び級とは違ったので純粋に疑問だった。
「午前中はみんなと同じ授業を受けるんですけど、午後からは特別授業になりますの」
「特別授業?」
「ええ、学年が上になってから学ぶ内容を教えてくれる先生がついてくれるの」
それは果たして飛び級というのだろうか?
どちらかと言うと特別クラスの方がしっくりくる。
「ということは学年は変わらないの?」
「順調にいけば初等部で卒業できるわ」
学園は初等部と高等部があり、高等部を経験せずに卒業可能ということだろう。
前世の知識で例えるなら初等部が小学校で、高等部が中学校といった感じだろうか。
高等部を卒業すれば各々就職が待っており、貴族は親元で修行、平民は貴族に使われたり王城で働ければ成功と言っていい部類になる。
平民と貴族が一緒に学べる学園は、貴族は優秀な部下と嫁を探し、平民は仕える貴族探しが主な目的となってくる。
しかし平民が貴族に採用される可能性は低いため、学校での成績が悪いものは、はなから諦めて将来設計を立てているのが普通だ。
「卒業したら王城に勤めるんですか?」
「まだ決めていないわ」
女性で貴族ならば婚約が決まるか、優秀なら王城に召し抱えられるケースが多い。
運が良ければそのまま王族の側室なんてこともある。
「アシム准男爵も優秀と聞いてますわよ?」
「それは光栄ですね」
「学園で優秀な男の子はアプローチが多いので大変そうよ?」
「僕がそうなると?」
「そうね。少なくとも噂になるほどの知名度はあるから可能性は高いと言えるわ」
「なるほど。アメリアさんはどうなんですか?」
女の子に自分の評判を聞くのはどうかとも思ったが、好奇心が勝った。
「飛び級が影響するかってこと?」
「そうですね。元々侯爵家という身分もあるでしょうから」
「そうね。婚約はまだ決まっていないわ」
学園に入学したてだと普通だが、彼女の言い方だと何か含みを感じる。
「飛び級の影響を考えるなら、婚約は難しくなったと言えるわ」
「王城に入る可能性があるからですか?」
「それもあるけど、侯爵家の娘で優秀となれば自然と相手が遠慮してしまうのよ」
身分の高さに優秀さが相まって釣り合う相手がいないのだろう。
通常ならば家格が下の伯爵家や場合によっては子爵家も選択肢に入った。
だがアメリアは飛び級で王城勤めの可能性が高いため、下の爵位では釣り合わない女性となってしまったのだ。
そこまで話をしていると横やりが入ってきた。
「おやおや。バレンタイン侯爵殿! いくら准男爵が珍しいからと話していますと耳が汚れてしまいますぞ?」
アシムを馬鹿にしたような言葉を投げかけながら、貴族が絡んできた。





