第83話 出発
誤字報告ありがとうございます!
「アシム様こちらを」
「うんありがとう」
アシムはメイドたちに着せ替え人形のような扱いを受けていた。
子供の心ならば大丈夫だろうが、未だハッキリとしない前世の記憶に感情が引っ張られてばかりだ。
「はい! これで完了です!」
「ありがとう」
「ふふっ! 先ほどからそればかりですね」
「いや、着替えくらい自分でできるものだろ?」
「そうですね」
メイドは心にも思っていないのか、優しいまなざしを向けてくる。
コーデイル公爵からの晩餐会招待を受け準備にメイドたちが張り切っているのだ。
「頑張ってくださいね!」
何故か応援される。
「何を頑張るのさ?」
「公爵家に気に入られれば出世間違いなしです!」
「出世か……興味ないかな」
出世して領地経営が嫌というわけでもないが、お金を稼ぐという意味では困っていない。
現在ユーリが稼働中なので最悪ヒモ生活も可能だ。
「メイドの中にはアシム様についていくと決めた者も多くいますよ?」
それはしっかり養えという意味だろうか。
「サルバトーレ家を衰退させたいわけでもないし、ボチボチ頑張りますか」
「はい! アシム様がボチボチ頑張ってくれたら他の貴族に負けないと思います」
「ははは! 大きい期待を背負っているようで嬉しいよ」
アシムはメイドの太鼓持ちだと思って軽い気持ちで聞いている。
準備ができたので玄関から出て馬車へ向かう。
「後ろの馬車がアシム様でございます」
「家族なんだから父上と一緒でいいのに」
馬車がアダン用とアシム用の二つ用意されていた。
「ははは! そうもいかんだろ」
「父上!」
話を聞いていたのか後ろからアダンが現れる。
「いいか? お前は准男爵として招待されたんだ。他の貴族に送り迎えされていると思われてはダメなんだよ」
「同じサルバトーレ家でもですか?」
「ああ、そうだ。そもそも公爵家がわざわざ招待してくださったのだ。それを無視する形はよくないだろ?」
「そう、ですね」
確かに公爵家がわざわざ別で招待状を送っているのだ、それを無視した形は無礼にあたるだろう。
アシムは納得して馬車に乗り込む。
「アイリスは父上のところに乗らないのかい?」
馬車に乗るとアイリスとユーリが先に待っていた。
ユーリは護衛兼アイリスの子守である。
「お兄様と一緒がいいです!」
今の言葉をアダンが聞いたら泣いてしまうかもしれない。
「そうか。公爵様の屋敷についてもお行儀よくしておくんだよ?」
「はい!」
元気いっぱいな返事に癒される。
アイリスは行っても晩餐会には参加できない。
”基本的”に大人しか参加しないのだ。
子供は別室で待機ということになる。
意外とこの別室の子供たちも繋がりが増えるという意味では重要なのだが。
サルバトーレ一行は、馬車に揺られながらコーデイル公爵家へと向かった。
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