第76話 風格
「ギュスタブさんでいいのかな?」
「ああ」
態度の悪い男がソファに座っている。
「それで本日はどんな御用で?」
「やめろ」
「何を?」
「私兵団にすることをだ! 舐めんじゃねえぞ!」
ギュスタブの癇に障ったらしい。怒って怒鳴り散らしてきた。
「これまた、いいかい? 君たちは組織として負けたのだよ? その責任を取らされているのをわかっているのかい?」
「俺たち闇の人間はな! 舐められたらお終いなんだよ! 今どんな状況かわかってんのか?」
「さあ」
アシムはからかうようにとぼける。
「ダイン一家と抗争中なんだよ! 縄張りを奪われても良いっていうのか!」
貴族には正直関係ないことなのだが。
縄張りが変わろうと、国に払う税は変わらない。
「貴族に闇組織のことを気にしろって? バカなこと抜かすなよ? サルバトーレ家に喧嘩売っといて負けたら都合が悪いから関わるなって? 舐めてんのか?」
アシムはギュスタブが最初威圧をかけてきたことなど子供のお遊びのように感じるほどのプレッシャーを放つ。
「うっ」
何かを言おうと思ったのだろうが、アシムの雰囲気に呑まれ言葉が出てこない。
「まあいい。お前みたいなやつが出てくることなんて予想できていたからな」
「な、ならどうする?」
ビビッてはいるものの、闇の人間としての矜持は守る覚悟を決めているようだ。
「俺がもうひと働きしてやる! ダイン一家との抗争に勝ってやるよ」
「それは」
「もちろんサルバトーレ家の力だけでな! 闇組織2つに勝ってまさか文句言うわけないよな?」
私兵団を持たない貴族が闇組織に勝つなど到底無理だ。
だが今回ギュスタブ達は負けた、その結果がアシムの言葉に重みを持たせていた。
「それでも敵対したいと言うなら好きにしろ」
「お、おめえが2つの組織を牛耳るなら認めてやる!」
ギュスタブは必死に取り繕っているが、完全にタジタジになっている。
アシムとしてもエリゼに元々ちょっかいをかけている相手なので、そのままというわけにはいかなかった。
「わかったならさっさと行け!」
アシムはギュスタブを追い出し、自分もさっそく動き出す。
この時のアシムの姿を見たゲイル曰く。
かつて戦場で一緒に戦ったアダンをも凌駕する気迫を感じたという。
「ハァハァ……アシム! なんて凛々しいの!」
扉の向こうに息を荒げながら座り込む姉がいたことにアシムは気づいていたが、恐ろしくて声をかけられなかった。
「よし! 行こう!」
心なしかアシムの歩調は速かった。





