第72話 手を出してはいけない者
「それで失敗に終わったのか?」
がっしりとした体形に、長い髪を後ろに結んだ髪が特徴的な男が怒っている。
「は! 今回のターゲットであるアシム・サルバトーレにやられました!」
「子ども一人……とは言わん。負けて当然だ!」
「負けて当然ですか?」
先ほどから怒っている人物は、この組織のボス。ライゼン・モーリスである。
頭を抱えながら呆れたようにため息をついた。
「あれほど調査結果を待てと言っていたのにこれとは」
ライゼンは遊郭を根城にするほど遊び人だが、慎重な性格でもあった。
側に置く女は長年の信頼を築いた者たちだけで、新参者は簡単に抱え込まない。
組織の組員も自分の目で見て、信用した者にしか権限を与えない。
「アシム・サルバトーレ。奴がデュラム家を潰した張本人だ!」
報告に来た男は何を言われたのか理解していない顔をしている。
「これは確かな筋の情報だ。とアシム・サルバトーレは将来独立を約束された貴族だ」
「独立!」
男はその言葉を聞いて、信じられないものを聞いた自分の耳を疑った。
「お前ならわかるだろ? 家を継ぐのではなく、独立を許されている貴族だ」
少し間が空きポツリと声が漏れる。
「王家のお気に入りということですか?」
「そうだ。どこぞの派閥に影響を受ける前に王家が抱え込んだということだ」
「それはもう」
「そうだ。将来は王の下につく新公爵ということだ!」
「こ、公爵」
男は自分たちが何をしでかしてしまったのかを理解した。
「サルバトーレ家当主の名前で消しているが、紛れもない事実だ」
アシムには伝えられていないことだが、貴族の家から独立を許される貴族というのは、貴族を束ねる者と認められるようなものだった。
「王家が動くということですか?」
「いや、どうにか交渉した」
「応じてくれたのですか?」
王家が抱え込んだ者に手をだしたのだ、これで許しては王家の威光に傷がついてしまう。
「条件付きだ」
「条件?」
「アシム・サルバトーレに許しを得ることだ!」
「ほ、本人にですか?」
「ああ、そうだ。できなければ極刑だ」
「きょ! 極刑!」
王家は簡単には許してはいなかった。
しかし、これはアシムに功績を上げさせるチャンスでもあると考えたのだ。
「逃げることは許されんぞ? 今俺たちは王家の”鷹”に監視されている」
「”鷹”ですか……」
男は絶望したような顔で俯く。
闇組織の者なら知らない奴はいないであろう有名人だ。
”闇を葬る鷹”
この者と対峙した組織で生き残っている者はいない。
これが、闇組織が助長しない枷になっているのだ。
「それに、アシム・サルバトーレも化け物だぞ?」
「確かに、この目で見ましたが尋常ではありませんでした」
男は去り際に見たアシムの異常な黒い魔力。
あれが普通ではないと常人でもわかるレベルだった。
「アシム・サルバトーレを探せ! ここに来た場合は何もせず通せ!」
頭を抱えたライゼンは、生き残るために最善を尽くすのみだった。





