第61話 無口の少女
アシムは現在すごく気まずかった。
目の前に座る少女にじっと見られている。
話しかけても返事はしないが、完全に無視をしているというわけでもなさそうだ。
結構美人さんなので見られて悪い気はしないが、この状況にした姉の心境がわからなかった。
エアリスの弟子になりたいと、実家にまで予告押しかけにきたシャール家の娘サーニャ・シャールだ。
メイドのエリゼさんが紅茶を持ってきて以来この部屋は静寂に包まれていた。
アシムはこの無言が耐えられなかったので、一人で喋るという奇行にでた。
「サーニャさん」
名前を呼ばれたサーニャはピクリと反応した。
「僕と関わらないという約束を守ってくれてるのは嬉しいんだけど、今は僕から関わってるから別に喋ってもいいんだよ?」
なにか言いたいのか、唇のほうがヒクヒクしている。
「わかった意地でも喋らないならせめて首を振ったりしてくれないかな?」
それはいいのか、少し考えてこくりとうなずく。
「ありがとう」
なんとかコミュニケーションがとれそうで一安心である。
「サーニャさんは姉上と遊びにきたの?」
サーニャはショートボブの髪を揺らしながら首を横に振った。
「やっぱり目的は弟子入り?」
今度は縦に首を振る。
「一つ約束して欲しんだけど、姉上がダメと言ったらあきらめてくれないかな?」
サーニャは首を動かさない。
戸惑いが瞳に現れている。
アシムのことは貴族の間では話題になっていた。
最近力をつけてきているデュラム家を潰した子供。
色々な尾ひれがついて貴族社会に広まるのはあっという間だった。
外聞的にはアダンが主導で動いてお姫様を味方につけたという噂のほうが強いが、貴族の間で何故かアシムの存在が囁かれていた。
「ダメか……」
このままエアリスのストーカーになって貰ったら流石に姉が可哀想だ。
どうにかして納得してもらわらなければならない。
「わかった! じゃあ僕と決闘をしよう!」
サーニャが目を見開いた。
「君が勝てば僕からはもう何も口出ししないし、君の方からも条件を僕に飲ませることが出来るよ?」
サーニャにとっては旨い話に聞こえる。
男の子とはいえ年下の相手だ、負ける気はしない。
「どう? 婚約相手探してるんでしょ?」
確かに親からさんざん婚約者の大事さを聞かされているので、内心焦ってはいる。
貴族は学園にいる間の婚約が普通で、早い貴族の子供は1歳で決まっていたりする。
それでもサーニャはエアリスとの約束があるためアシムとの会話を頑なにしない。
「これでも喋らないか。しょうがない姉上がくるまで待つか」
エアリスという通訳を通さなければ喋れないというなんとも面倒な約束である。





