第60話 喫茶店
アシムは姉の初めての外出に付き合い喫茶店にて話を聞いていた。
「それでね、入学早々シャール家の子に決闘を挑まれたのよ」
決闘とは貴族同士で話し合いを行っても、折り合いがつかない問題を解決するための方法だ。
基本的には国の法律など関係ない、ちょっとした私情のもつれを解決するために行われる。
決闘の結果をないがしろにすると貴族としての信用を失い孤立してしまうので、派閥を大事にしているお偉方にとっては致命傷になってしまう。
「どんなことしたの?」
姉が悪いことをするとは思えないが、相手方がどんな人かわからないので何も言えない。
「デュラム家の仇って言われたわ」
「仇? デュラム家は全員処刑されたはずじゃ……」
そうデュラム家の事件は国家反逆罪として、血縁関係にある者たち全員が処刑されていた。
「婚約者だったらしいのよ」
「婚約者?」
確かデュラム家の息子はエアリスやアイリスを狙っていたはずだ。
「そう、私を側室にしてそのシャール家の娘が本妻になるはずだったらしいの」
デュラム家はそれを一切伝えず、エアリスの婚約を決めてしまえば大丈夫と思っていたのだろう。
「それでね婚約者が欲しいらしく、アシムと婚約させろとか言ってきたのよ」
仇であるアシムとの婚約を望むとは……仇をとることじゃなく自分の将来の保身のためだった。
貴族の子女である以上いつかは結婚をして家を出ていくのが普通だ。
しかしアシムを指名してくるとは、なりふり構っていられないのか、もしくはアシムの経済力を聞きつけての行動だろう。
「それでどうしたの?」
「もちろん叩きのめしたわ!」
「断りはしなかったの?」
決闘はあくまで示談のようなものだ。断るという選択肢ももちろんとれる。
「そうね、シャール家は男爵位だから断ってもよかったんだけど。戦ったほうが早いじゃない?」
「姉上が負けるとは思いませんが、わざわざ受ける必要があったの?」
「ええ、今後一切アシムにはあちらから関わらないと約束させたわ」
「僕に関わらない? サルバトーレ家に関わらないようにしたほうが良くない?」
また難癖つけられて絡まれそうだが。
「そうなの、完全に失敗したわ」
「失敗?」
「そう失敗。その娘アシムには関わらないけど今度は私に‘‘惚れた‘‘みたいなの!」
「姉上に? だけど女の子どうしは結婚できないんじゃ?」
「さすがに結婚まではいかないわ。弟子にしてくれとしつこいのよ」
「姉上の剣術に惚れたの?」
「そうみたい。明日こっちにくるらしいわ」
「え! 大丈夫なの?」
曲がりなりにもデュラム家の元婚約者だ。
「大丈夫よ。デュラム家にはなにも思うところはないみたい。」
婚活に必死なだけだったようだ。
「それならいいけど」
「だから今日はめいいっぱい遊びましょ!」
久しぶりという程ではないが、なれない学園生活で大変であろうエアリスのお願いを叶えることにした。





