第57話 ユーリのお仕事
ユーリは森の中を歩いていた。
「武器はそれでいいのか? 魔物の皮は分厚いぞ?」
「俺は重いもの持てないからこれがいいんだよ」
ユーリはかなり強いが、流石にサルバトーレ家の非常識な強さの前では霞んでしまう。
「まさかハンター業で貴族に成り上がれるとは知らなかったぞ?」
ユーリには、いかにハンター業が重要かを説いていた。
「魔物の気配を感じながら森を走り回るんだ!」
「そんなことしたらこっちが先に見つかるだろうが!」
「察知されても反応できないスピードで狩ればいいのさ!」
「そんなことできるか! すれ違い感覚で魔物なんて狩れないわ!」
魔物を狩る場合、慎重になるのが普通だ。
ゴブリンでさえ、数が多かったら命がいくつあっても足りなくなる。
「そうかな? 1000体いても1対1を1000回すればいいだけだろ?」
「そんなに素早く倒せないから! とにかく俺のペースで狩るぞ! お前のスピードでやるなら俺はやらんからな!」
「ああ、それでいいよ」
アシムの目的とは、ユーリを自分の代わりにハンター業で稼がせることだった。
最近は王都でのゴタゴタがあってハンター業を休んでいたのだ。
「フェルツっていう男の人が指定の場所に魔物を回収しにくるから、そこまで運んでね」
「なら大型は狩れないな」
「しょうがないか」
アシムも流石にユーリにそこまでは求めていない。
ユーリに求めるのは、今後貴族としての働きが増えるであろう自分の補佐である。
アシムがやることの一部でも負担してくれることを期待していた。
「終わったら家で勉強だからな」
「勉強?」
「学園にはユーリも行ってもらうからな?」
2年後に入学予定の学園にユーリも連れていくつもりだった。
「いいのか? 金高いんだろ?」
学園に通うには決して安くない金額がかかってしまう。
貴族なら問題ないだろうが、一般市民からしたら簡単に手を出せるものではない。
「その分稼いでもらうから大丈夫だ」
「なるほどな」
ユーリに稼がせる理由を話すと、やる気をだしたようだ。
「しかし、俺を学園に通わせてどうするつもりだ?」
「言っただろ、お前は俺の部下だ。当然俺の補佐をしてもらうためさ」
「一体何をしようとしてるんだ?」
「年齢が若いからまだだけど、僕にはサルバトーレ家とは別に貴族位が与えられているんだ」
「家とは別?」
貴族位は普通家に与えられるものだが、デュラム家の謀反を解決した褒章としてアシムは‘‘個人‘‘で貴族位をもらっていた。
つまり王様は、一度没落したサルバトーレ家に領地は任せられないが、アシムになら領地を与えてもいいというメッセージだった。
しかし、領地を経営するにはまだ昇進が必要ではあるが。
「ああ、貴族の事情ってやつだ」
ユーリはアシムが話す気がないとわかるとそれ以上聞くことをやめた。
自分と姉を救ってくれた恩人だ、報いたいという想いがあれば十分だと判断した。





