第56話 素敵なレディ
「マリア! 今日は剣術をするのです!」
「剣術?」
アイリスは先生役をできて嬉しいのか、リアクションがいちいちオーバーである。
アシムが最近家を空けているので、アイリスは暇だったのだ。
「そうです! うらわかきおとめのたしなみなのです!」
「うらわかきおとめ?」
「女の‘‘みりょく‘‘です!」
「みりょく?」
「これをもって!」
マリアが理解できていない反応だが、アイリスは構わずに先を進める。
半ば強制的に渡されたのは木剣だった。
マリアはこれまで木剣どころか、武道に触れたことがなかった。
「お、重い!」
アイリスは軽そうに持っているが、木剣は子供には重かった。
「もてないですか?」
先生ぽさを意識してしゃべっているからか、しゃべりが拙い。
「アイリスちゃん、重すぎるよ」
「わかりました!」
そう言うと、アイリスは近くの木に向かって魔法を放った。
「これでどう?」
落ちてきた細い木の枝を拾って、マリアに渡す。
「これならもてるよ!」
「おんなをみがくわよ!」
アイリス的には妖艶な笑みを浮かべたつもりだったが、それを見たマリアは獰猛な獣に睨まれた気分だった。
「こう構えて」
「こう?」
「そうそう。そして突く!」
アイリスが高速の突きを見せる。
風を切る音が聞こえ、マリアには認識ができなかった。
「ア、アイリスちゃん? 剣苦手って言ってなかった?」
「うん。お父様に剣よりも魔法を頑張りなさいって言われたよ」
「へ、へぇ……」
剣術を初めて見るマリアは何がすごいのかなどわからないが、圧倒されたことは確かだ。
「だからね、剣はたしなむ程度でいいのよ」
まるでオホホと笑い出しそうなポーズをとる。
「そ、そうなの?」
「うん! これが終わったら優雅な魔法のお時間よ!」
アイリスの素敵なレディの基準を学んでしまったマリアは、これが普通ではないということを気づくのに、数年かかってしまうのだった。





