第55話 釈放
「どうにかなったか」
ユルゲンは、解放された奴隷商を部下に迎えさせながら呟いた。
「誰がやったか分かったのか?」
「多分だが、サルバトーレ家だと思うが……」
「思う?」
兄貴に報告をするが、未だ確証は得られていないようだ。
「今回の交換条件に、ユーリとエリゼを要求してきた」
「あのガキを、サルバトーレ家が?」
「いや、お姫様ということになっているらしい」
「お姫様? 十歳かそこらのガキじゃなかったか?」
「ああ、だが最近サルバトーレ家と仲がいいと話を聞く」
アシムは内密に会っているが、デュラム家を潰す時にどうしてもシャルル姫との協力関係を公表する形となってしまった。
「サルバトーレ家の当主か?」
アダンがお姫様に頼んだのかと疑問に思う。
「いや、ユーリを貰ったのはどうやらガキらしい」
「ガキがユーリを? 友達か?」
「ユーリの家で目撃はされているが、ここ数日の話らしい」
「ちっ! ただのガキが正義面して友達を救ったつもりか?」
「その可能性が高いと思う」
アシムがユーリと親しくなり、アダンにお願いして今回の騒動を起こしたとみていた。
「サルバトーレ家はアホか? 俺達と事を構えて何になる?」
モーリス一家としては、このままやられっぱなしでいるわけには行かなかった。
「モーリス一家と事を構えてもユーリが欲しかったのか、ただの親バカか……」
サルバトーレ家の世間の評判はどちらかと言うと悪い。
武力の威光は大分薄れていた。
「一度没落した貴族が最近また武功を上げて返り咲いたらしいが、身の程を弁えてもらわないとな」
「兄貴? どうするつもりだ?」
「そうだな、サルバトーレ家を調べろ。家族構成は徹底的にな」
「武の名家には人質で脅すってことか?」
「ガキを取られたんだ、こっちもやり返すだけさ!」
「それであの親を仕留めると?」
「そうだな一応貴族様だからな……賊に殺されるなら仕方ないよな?」
兄貴はニヤリと口元を吊り上げ、モーリス一家をコケにした貴族を潰すことを想像して笑っていた。
「了解した」
そう言うとユルゲンは奴隷商が乗った馬車へ乗り込み、部下へ指示を出す。
「ネルソン、サルバトーレ家の情報は持っているか?」
ユルゲンはネルソンに先ほどの話をし、サルバトーレ家への報復を伝えた。
「サルバトーレ家……最近復興したお家だが、その時武功を上げた現場はただ事ではなかったらしいぞ」
「落ちても武は健在ってことか?」
「そうだな、戦闘をするなら警戒は怠っちゃいかんということだろう」
「わかった」
薄暗くなった街を、奴隷商を乗せた馬車が音を立てながら走っていた。





