第54話 司法取引
ネルソンは薄暗い牢屋の中で座っていた。
一度裁判にかけられたが、ネルソンと結びつけるものが未だ不十分という‘‘建前‘‘で保留にされた。
ネルソンの奴隷商の店は調べられ、違法奴隷は確保されているはずだが、組織が動いてくれたのだろうおそらく交渉中だと思われる。
「面倒なことを」
こうなることは国王もわかっていたはずだ。
このご時世組織の後ろ盾がない奴隷商など存在しないのだ。
それをわかって捕まえるということは、何かしら組織に対して要求をするつもりなのだろう。
こうやって牢に入っていると、冷静に考える時間ができ自分が交渉の餌として使われていると推察できた。
「無理な要求じゃないように祈るしかないか」
そうそうないと思うが、奴隷商を切り捨てるほどの要求でないことを祈るばかりだ。
そんなことは本当に稀だ。何故なら奴隷商は国王に‘‘認可‘‘を受けている職業で、奴隷の登録をする時は国に申請を出さないといけない。
国との関わりが密接に行われる職業なのだ。社会的信用や価値はかなり高いものになっている。
だからこそ今回餌に使われたのだろうが。
牢の端で考えを巡らせることしかできないネルソンは、自分の価値の高さを再認識し、これからの事に考えを巡らせるのだった。
☆
「要求は通ったぞ」
「やったー!」
アシムはいつもと違い、年齢相応な喜び方をしていた。
それだけ今回の‘‘報酬‘‘は嬉しいものだった。
交渉内容としては、国側が求める人材の提供と、今後違法奴隷を作ることをやめることだった。
それを破った場合は容赦なく組織が潰されてしまう。国側の要求が全面的に通ったが、司法取引としては国側の敗北と言っていいだろう。
多額な賠償を求め、違法奴隷を‘‘全て‘‘没収するのが基本だろう。
だが今回は、店にいた村娘達の解放までに留まっていた。
そもそも司法取引で無罪にできてしまうあたりに闇を見てしまうが。
そんな事情をわかっているのかいないのか、アシムは上機嫌だった。
「よろしく! ユーリ君! エリゼさん!」
その場には、ユーリとエリゼが同席していた。
直前になってしまったが、司法取引が裏でまとまった時点で呼ぶようにお願いしておいたのだ。
「え、ええ。明日からアシム君の屋敷で働くの?」
エリゼさんはまだ頭が追いついていないようだ。
突然降ってきた話なので無理もない。
「うん! エリゼさんは明日からメイドとして働いてね! 待遇は保証するから」
身の安全を確保するためにも、半ば強制的だがサルバトーレ家で働いてもらうしかない。
「ユーリは明日から僕直属の部下ね」
「ちっ! 気に食わんがいいだろう」
なんとマセた言葉だろうと、エリゼとアシムは笑ったがその笑顔は、明日からの明るい未来に期待するかのような笑顔だった。





