第53話 逮捕
「これは! どういうことですか?」
「奴隷商ネルソン! あなたを違法奴隷作成の容疑で身柄を拘束します!」
「なんの証拠があって!」
「王命が出ております!」
リーゼロッテが王命の書かれた書類を取り出す。
ネルソンは信じられないという表情をしている。
午前中のうちに調べ終え、王命まで出す素早い対応だった。
(クソッ! 誰だ裏切者は!?)
いまだ奴隷が連れ去られた報告は入っていない。
アシムの偽装が効いていたのだ。従業員が確認するのは戸締りがきちんとなされているかで、人数までは確認していなかった。
故にネルソンは、内部の人間のリークではないかと考えている。
(モーリス一家に助けてもらうしかないか)
現状できることはそれだけだった。
奴隷商は国王の任命あってこその職業だ、無罪となれば権利を剥奪されることもない。
(帰ってきたら従業員を一新しなければな)
裏切者を見つけ出すのは難しい。証拠を残したとしても、既に逃げ出しているだろう。
ネルソンは王命を受けた騎士団に大人しく従い、連行された。
☆
「何? ネルソンが捕まっただと?」
ユルゲンは面倒なことになったと、不機嫌になる。
「わかった。すぐ交渉しろ、なんとしてでも無罪にしろ!」
部下にそう命じると、ユルゲンはあの酒場とは別の建物に入る。
中に入ると、遊郭独特の甘い香りに包まれる。
「あらユルゲンさん! 遊んでいかれますの?」
遊郭の女に声をかけられる。
「いや、兄貴を呼んでくれ」
「あら、ちょっとぐらい遊んでもいいんですよ?」
「早くしてくれ!」
ユルゲンはイライラが溜まっていたのもあってつい声を荒げる。
「ちょっと待っててくださいね」
女は気にした風もなく、奥に引っ込んでいった。
しばらくすると、女が現れ部屋へ案内された。
「ユルゲン! 遊んでたのによ水を差しやがって! 重要な用なんだろうな?」
部屋へ入ると、明らかに不満を溜めたようなガラガラな声が聞こえた。
「奴隷商が捕まった」
兄貴と呼ばれている人物の顔が真剣なものに変わった。
「違法奴隷か?」
「ああ」
「国王は俺達と知ってやったのか?」
「分からないが、‘‘無視できない何か‘‘があったんだろう」
「他の一家か……」
兄貴と呼ばれている人物は、他の一家との抗争を思い浮かべたようだ。
「もしくは裏切り者がいるか!」
「心あたりがあるのか?」
「ない。ただ奴隷を調達してから、逮捕まで時間がかなり短かった」
「なるほどな。取り合えず裏切りの線と、他の一家への探りを入れてみろ」
「わかった。奴隷商はどうする?」
「もちろん助けろ。奴隷商は貴重だからな」
そう言うと、兄貴と呼ばれている人物はお店を出ていった。





