第51話 救済の悪戯
「これ噛んで」
口に布を噛ませ叫び声が出ないようにする。
「いい?」
女の人は覚悟を決めたように頷く。
「大丈夫、僕の魔法で衝撃をやわらげるから。でも飛べるわけじゃないから着地したら、横に転がって受け身をとってね」
そう言うとアシムは女の人の手を引っ張って一緒に飛んだ。
女の人一瞬悲鳴を上げそうになるが、落ちるスピードが異常なのに気づく。
「ほら受け身取ってね」
そう言う余裕はあるぐらいに減速をした状態で、地面に降り立つ。
言われたとおりに受け身を取ったが、衝撃は弱く浮遊感を感じるぐらいだった。
「よし! 怪我はない?」
お互いに無事なのを確認して先へ進む。
「ここで待ってて」
女の人を草むらに隠れているように指示をして、アシムはもう一度建物の裏口から中に入った。
「あった」
鍵が保管されている棚に駆け寄り、偽装に使っている錠前の鍵を鍵束に紛れ込ませる。
これで暫くは時間を稼げるはずだ。さらに上手くいけばバレない可能性すらある。
外に出ようとした時、裏口の向こうから人の気配を感じる。
(やば!)
そのままメインホールの方に行っても見つかる可能性がある。
とりあえず荷物が積まれている場所へ隠れる。
人が扉を開けて入ってきた。その人物は服を従業員用の服に着替えると、荷物を積んである場所へ向かってきた。
(ヤバい!)
見つかるのも時間の問題だった。
何かいい案が思いつくわけもなく、ただ見つかるのを待つしかなかった。
「ガンッ!」
裏口の方で大きな音が鳴った。
「ん?」
従業員は確認するために扉を開ける。
「なんだ? いたずらか?」
扉の前にはそこそこ大きな石が落ちていて、どうやらその石が投げつけられたようだ。
「壊れてるじゃねえか!」
扉は貫通はしていないものの、抉れていた。
「お前か!」
そう言って従業員は犯人らしき人物を追いかけていった。
(た、助かった~! 早く出よ)
アシムは待たせている叢のところに向かった。
「大丈夫でしたか? 人が入っていくのが見えましたが」
「うん。扉に石をぶつけられたみたいでね、悪戯した人を追いかけていったよ」
「先ほどの音は、そうだったんですね」
「見てなかったの?」
「はい、人が来たので見つかってはいけないと思って隠れていました」
ありがたい判断だ。顔を出して見つかっては元も子もない。
「よかった。それじゃあ行こうか」
悪戯の犯人はわからないままだが、こちらの味方をしてくれたのだろう。
ここは相手の好意をありがたくもらい受けることにした。
村娘を連れ、早朝の街を通り抜け王城へ入っていく。
事前に根回しをしていたおかげで、止めることもされず中に入る。
「こっちだ!」
待っていたであろうリーゼロッテと合流する。
「早かったな」
「何とか見つからずに済んだからね」
「そうか上手くやったのだな」
「それじゃあ後は頼むよ」
「任せておけ」
後はシャルル姫が奴隷の確認を済ませて、事の顛末を話せば万事上手くいくはずだ。
闇組織が入ってきて交渉でなかったことになるだろうが、アシムの目的としてはそっちの方がありがたい。
(王国に闇の部分があって良かった。)
国の理想としては許されないことだろうが、綺麗ごとだけでは済ませられない実利が大きいのだろう。





