第5話 父の考え
「エイバルどうした?」
執務室で作業をしていると、息子のアシムと魔法の勉強をしているはずのエイバルが訪ねてきた。
「アダン! アシム君の事で話したいことがある」
「何? 何かあったのか?」
血相を変えたエイバルを見て不安になる。
「ああ、そうだな。アシム君の魔法についてだ」
「そうか、時間が今は少ないがすぐ終わるか?」
「内容はすぐ終わる」
「わかった内容だけ聞こう」
「ああ、相談が必要なら夜にでもしよう」
「そうだな」
早急にエイバルの伝えたいことだけを聞くことにする。
エイバルは非常に優秀な男で、普段から家庭教師をやっている人物ではないのだが、昔の馴染みとして子供たちの育成に協力して貰っている。
「アシム君の魔法だが、神聖魔法だ」
「神聖……あの神聖魔法か?」
「ああ、文献通りの魔法だ」
「魂を焼き尽くす神をも殺す魔法」
神聖魔法とは、伝承に残っているおとぎ話のような魔法なのだ。
エイバルのことは信じているが、内容が内容なだけにどこか信じきれない。
だが、はなから否定もできないので詳しい内容を聞く必要が出てきた。
「なるほど、実際に見てどうだった?」
「生き物には試していないが人形に放ったところ、人形に被害は無かったよ」
「つまり、魂のみを焼き尽くしているということか?」
魂のみを焼き尽くす炎。
伝承通りなら、真っ黒で禍々しい黒炎ということになる。
何故そんなものが神聖魔法と呼ばれているのか……。
神に有効な魔法ということで、神聖な炎ということらしい。
「それはまだわからないが、十中八九そうではないかと思っている」
「わかったありがとう、夜に相談したいからまた来てくれ」
「ああ」
そう言って、エイバルとは別れた。
「神聖魔法だって? 大事じゃないか」
おとぎ話でしか聞いたことのない魔法に困惑していた。
◇◆◇◆◇◆
「ふぅ」
少し寝て大分楽になったので、今後のことを考えてみる。
「母さんみたいにハンターとして稼ぐか……」
母親は元々ハンターで魔物狩りをしていたが、父と結婚すると引退。
しかし1年ほど前借金を返すべく、ハンターに復帰したのだ。
「その母さんは行方知れずか」
ハンターで1000金貨を稼ぐには、ドラゴンなどの最強種を狩る必要がある。
まぁそれは1発で稼ぐ方法なので、もう少し難易度を下げた方法でやっていると思う。
「ドラゴンなんて普通狩れないしな」
ドラゴンはこの地上で最強と言われている生物だ。
しかし、基本山に篭っているので出会うことはない。
「新たな知識を使って金儲けか?」
と新しく手に入れた前世を思い出すが、実際に作れるような知識はない。
「やっぱどうにかして、もう一回貴族になるのが一番だよな」
隣国と接している辺境伯にでもなれれば、1000金貨などすぐ返せるのだが。
「あ、もう少しで昼ごはんか」
考え事をしていたら、お昼の時間になっていた。
「憂鬱だ~」
お昼に憂鬱なのではなく、午後はデュラム家の息子と同じ鍛錬をしなければならない。
そう、朝と昼の2部構成をこなしているのだ。
「そりゃ、手をぬきたくなりますって」
鍛錬に身が入らない理由として、この午後の鍛錬が大きな壁となっていたのだ。