第47話 村娘の変化
アシムは暗闇の中から聞き耳を立てていた。
「一人減ってしまったか……まぁいい」
ユルゲンだ。
村に来ていたであろう、男と一緒にいる。
奴隷商館の中で何とか連れ帰った奴隷を見ていた。
店はすでに閉めたようで、エントランスホールで行っている。
アシムはいつもの通り風魔法を操り、音を拾う。
「ダロト!」
ユルゲンが声を張り上げると扉から使用人なのか、執事服を着た男が入ってきた。
「何でございましょう?」
前回侵入した時とは明らかに違う対応をする人である。この人は執事なのだろう。
「全員の世話を任せる」
「はっ! ではみなさんこちらへ」
奴隷にするには丁寧な対応だ、もしかしたら直前まで知らせないのかもしれない。
村娘達が去ったあと、ユルゲンがフードの男に指示を出す。
「明日、奴隷紋を入れるぞ」
「了解した」
アシムは奴隷化される娘達を助ける気はなかった。いや、正しくは奴隷化された後に助けるつもりだ。
王城に管理されているであろう奴隷の記録簿と照合すれば、一発でわかる。
問題は、どうやって娘達を不正な奴隷であると知らせるかである。子供が訴えても無理なので、シャルル姫を使うという手もあるが最近頼り過ぎている。なので、子供らしく親に頼ることにした。
次の日。
「父上」
「どうした?」
アダンと出勤前の鍛錬をした後に、アシムは切り出す。
「今日の夜相談したいことがあるのですが、いいですか?」
アダンは少し考え答える。
「わかった。すぐ話せることではないんだな?」
「はい」
鍛錬も終わり、アダンは騎士団に向かう。
その足取りは心なしか軽くなっていた。
(アシムが相談とはな)
子供達が小さいので相談などされたことはないが、最近は大人びすぎていて、世話が焼けるということもなかった。
アダンの心は子供に頼られたという嬉しさと、あのアシムが相談ということは、ただ事ではないという予感も同時に感じていた。
アダンが出勤した後、アシムは朝食をとるためアイリスと共に、ダイニングルームへ向かった。
「お! ジャム早いじゃないか? 確か契約はまだだった気がするけど?」
食事の準備をジャムも行っていた。
「はい、ご主人様。正式にはまだですが、ゲイル様にご教授して頂いております」
アシムはポカンとした。昨日会ったばかりだが、人が変わったような対応だ。
しかも、昨日まで村に住んでいて、貴族とは無縁な生活を送ってた娘がだ。
「そ、そうか今は見習いという形なんだな」
貴族の娘が、上位の貴族の家に見習いメイドとして働く時がある。
そういった娘は王城に入る前の教育として、見習いとして実習をしているのだ。
「後で話があるから、朝食が終わったら僕の部屋にくるように」
「かしこまりました」
村娘が一夜にしてこんなに変わってしまうとは、何があったのか怖くてアシムは聞けないでいた。





