第44話 ジャム
「痛っ! ありがとう」
女性を痛めつけてお礼を言われる……
冗談は置いといて、置き去りにされた女性は、蹴り飛ばされたときに怪我をしていたのか、肘付近をすりむいていた。
女性は何か言いたげな視線を、こちらに向ける。
「何?」
アシムは、ジロジロ見られるのはいい気分ではなかった。
「助けてもらって、失礼かもしれないけど、君いくつ?」
「六歳だよ」
「ろ、六歳!」
女性は、びっくり仰天である。
「ほら立って、森を抜けるよ」
「う、うん!」
女性の驚きを置いて、アシムは森を出るよう促す。
アシムが気になるようで、チラチラこちらを見てくる。
「ほら、出たよ」
ついには、こちらをガン見してきて、森を出たことすら気づいていない。
「あ、ああ、そうね」
夢から醒めたように、辺りを見渡す。
「自分で戻れる?」
「あ、えっと、うん、あ!」
混乱しているのか、戸惑ったような反応だ。
「ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」
女性からアシムに話しかけてきた。
「何?」
村への道でも忘れたのだろうか? この道に沿っていけば辿り着くのだが。
「このまま王都に行って、生きていける?」
「お姉さんは、王都に住んでいないの?」
もちろん、村人ということは承知で聞いている。
「私、村で暮らしていたの、ある事情で村を出ちゃったから、王都でくらせないかなと思って」
「王都で暮らすには、身元を保証してくれる人がいれば大丈夫だよ」
最悪そのまま暮らせはするが、医者に行けなかったり、ちゃんとした職に就けなかったりする。
「私ね、王都に知り合いがいないの」
「なら、仕事を探せば? 仕事場の人が身元を保証してくれるよ」
王都事情に詳しい六歳児にお姉さんは、面食らっている。
「そ、そう詳しいのね。王都の子供はみんな賢いの?」
「僕は勉強頑張ってるから」
「勉強? もしかして貴族様?」
「准男爵家の子なのね! 凄いね!」
お姉さんの目がギラついてきた。
「私の名前はジャム! 君は?」
「アシム」
「アシム君ね、アシム君お願いなんだけど私の身元を保証するように、親御さんに紹介してくれないかな?」
貴族に対して、凄い要求である。
「う~ん、行き場所がないなら僕の所で働く?」
まだ、使用人の数が少ないのであと数人は増やせる余裕がある。
それに、自分の思い通りに動いてくれる部下が、欲しいと思っていたのだ。
「本当! 是非是非!」
准男爵家で働けると思っているのか、凄い喜びようだ。
実際は、アシム専用のメイドになるのだが。
「それじゃあ、行こうか」
アシムはジャムを背中に座らせる。
「え!」
「野営は無理でしょ?」
そう言うと、アシムは走り出した。
お読みいただきありがとうございます!
評価やブクマで応援していただけると、嬉しいです!





